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DeathPlayerHunterカノンの小説を移植。自分のチェック用ですが、ごゆるりとお楽しみください。
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DeathPlayerHunterカノン[ゼルゼイルの旅路] EPISODE21
あたしがあたしであるために。

 ざくっ!!

「っ!」
 風の唸りが耳元で通り過ぎたと思えば、切り裂くような痛みが肩口に走った。じくじくとした尋常ではない痛みが、熱量を伴って襲ってくる。折れそうになる足を叱咤して駆け抜けながら、ちらりと目線を走らせると、矢がが掠った肩口から赤く染まっていた。
 奥歯を噛み締めて痛みを堪えながら、目の前の灰色の藪を短剣で叩き斬る。開いた小さなスペースに、躊躇いなく飛び込んだ。

 ごぉんッ!!

「……っ、無茶苦茶だわ……」
 灰色に染まった藪のカーテンの向こうで、紫色の光が閃いて轟音を立てた。灰色の景色は燃え上がることはないが、ここが元の林の中だったら、と考えるとどうなっていたことか。想像に難くない。
 疑念と不安に胸を痛める暇もなく、藪の向こうでこちらに向けて、紫色の矢が煌いた。
「くっ!」
 さらに藪を裂いて駆け出す。藪の中の小さな棘が、服と肌を引っかいて、小さな痛みを残していった。
「!」
 距離を取ろうと駆け出す刹那、一本の蔓がまるで意思でも持ったように、カノンのブーツの踵を捕らえた。ほんの二秒の遅れに息を呑む。
 視線を上げると、木上で矢を番える女の姿。
「――っ!」
 声も上げられずに目を瞑る。だが、無言のままに放たれた矢はカノンを貫くことはなく、突如、生まれた虚空の闇に飲み込まれた。
「……滅びの鬼か」
「……」
 ぎちり、と重い、空気が軋むような音がして、カノンを庇うように小さな少女が現れた。空気の中に溶け込んでいたように、まるで最初からそこにいたように、黒髪に黒いドレスを着た無表情な少女が佇んで女をイランでいる。
 桃色の髪の女が、滅びの鬼と呼んだ少女は、言葉では答えずに静かに右手を開く。

 ぎゅんっ!!

「!」
 少女の眼前の空気が歪んだ。
 虚空に少女が描いた円の中から、三日月を描く黒い光の刃が三本、現れる。切っ先を女に向けた刃は、風を貫いて収束し、女を貫こうと飛び交った。
「ぬるい」
 端的に女が口にすると、女の姿がぶれる。瞬時に女の姿が消えて、黒い刃は虚しく何も無い空間を貫いて消えた。
 ドレスの少女は愛らしい見た目にそぐわない、悪意に満ちた舌打ちを一つする。
「今のは……」
「……転移も出来ない人間はどっかに隠れてるです。
 シャルはお前なんか死んでも構わないですが、主様の意はシャルの意です」
 少女はとても好意的とは言い難い視線でカノンを睨むと、吐き捨てるように口にした。以前、少年が見せたほどの圧力はないが、ぞくり、と背中に寒気が走る。
 少女が首を頭上に傾ける。小さく息を呑むと、長いドレスの裾に包まれた足でカノンを蹴飛ばした。極、小さな少女のものなのに、叩きつけられるような衝撃がカノンを襲い、近くの木に吹き飛ばされる。
 瞬間、カノンのいた空間のすぐ頭上に紫の矢が五本、浮かび上がって下生えを貫いた。
「……ただの木偶が」
 口汚く吐き出して、少女はそのまま地面を蹴った。広げた両手に黒い光が立ち上り、三日月刀の形へ変化する。少女が両手で剣を振るうと、刀は刀身を伸ばして何も見えない空に伸びた。

 ぎぃんっ!!

 虚空に、耳障りな音が響いた。
 少女の刃が向けられた先の空が歪んで、弓で刃を受け止める女の形を造り出す。
「……漆黒」
 チェーンソーのような耳障りな音が響く中、少女がぼそりと呟いた。瞬時、滞空する女の背後に影が出来る。
 女はちらりとそちらを振り向いて、そのまままた虚空へと消えた。

 じゃきんっ!!

「っ!」
 影の中からは凶悪なラインを描く黒刃が何本も現れて、女のいた空間を貫く。敵ながら、あの空間にまだ人がいたと思うと、目も当てられない想像をしてしまう。
「人間っ!」
 般若のような形相をした少女に怒鳴られて、はっ、と気がつく。視界の中に女の姿を探して、片隅に紫色の光が見えた気がした。
 ぞわり、と背後に寒気が走り、振り向かないまま前のめりに飛び込む。

 ぞむっ!!

 紫の光が、頭上と足の下――地面から生えた。震える足で立ち上がると、そのまま木の影へ入る。
 たん、と地面に着地した少女が、黒い刃で紫の光を払う。散り返ると思った光は、吸い込まれるように黒刃に吸収されて、少女の翳す三日月刀が一回り大きくなる。
「……さすがは滅びの鬼。千年の眠りから覚めた後も、その力は変わらないか」
「……私は歴史の要に目覚めるだけです。要となる人に従うだけの存在。そう選んだだけのこと」
「解せない。誇り高き鬼の血を、どうして脆弱な種族の為に使うのか」
「そんなもの、お前には永遠に理解できませんですよ。父に従い、父に滅ぼされるだけのお前には」

 ぎどんっ!

 空間が、少女の発した重力に軋む。女はやはり表情を産まないまま、弓に新しい光の矢を番えた。



 ざんっ!!

 少年の槍が、飛来した光の粒すべてを切り裂いた。少年は黒衣の裾を翻すと、懐から取り出した符を掲げる。
「四方を統べよ、私と約せよ、汝が主を宣言する。私は汝と約す」
 紫の光が、間断なく少年を取り囲もうとする。少年はその脅威に、眉一つ動かすことなく静謐に佇んで、淡々と呪を口にする。
「汝が主は私。私の名に置いて宣言する、私に仕えよ、私の手にその力を捧げよ。
 私は汝に与える―――即ち、『壊れる硝子』[ブロークン・グラス]」

 ばきぃんっ!!

 少年の周囲に、透明な硝子の壁が浮かび、飛来した紫の光に弾け飛ぶ。しかし、光は少年の身体を貫くことなく、
「……行け」
 少年の身体を狙ったはずの紫の光は、飛来する先を替え、自らを生み出した男の方へと牙を剥く。
 男はふむ、と小さく頷くと、ひどくつまらなさそうに左手を振った。それだけで、紫の光は行き場を失い、消え失せる。
「つまらないですね。造形物は所詮、こんなものですか」
「……」
 男の揶揄に、少年は無言のまますっ、と目を細めた。構えた槍が、かちゃり、と音を立てる。
「……――『奈落』[オールフォールヘルズ]」
「!」
 少年の呟いた言葉に、男が小さく驚いて、腰かけていた木枝の上に立ち上がる。

 ごぉんっ!!

 鈍い音が響いて、男の立っていた大木が黒い炎に包まれた。そこだけぽっかりと空間に穴が開いたように、闇の炎が灰色の景色を飲み込む。
 炎の瞬きが止んでも、そこは最初から何もなかったかのように、乾いた色のない地面が広がるだけで。そこの空間だけ、木も、下生えも、影すら消えていた。
 しゅん、と空気が収束して、男が再び現れる。男は賞賛するようにひゅう、と口笛を吹いた。
「間力分成程度は可能ですか。彼のお人が、何故ただの失敗作を人形として操るのが疑念でしたが、確かに何にも利用せずに捨ててしまうのは勿体無いですね」
「……」
 少年は無言で槍を立てた。氷のような無表情で、ただ静謐に男を眺めるように見る。
「人の造りし悪魔、私にはわからない。何故、そうまで悪魔の名を拒み、ただの人の器を庇い立てするのですか?」
「……」
 少年はしばしの間だけ目を閉じた。すう、と息を吸い込み、軽く首を振ってまた口を開く。
「開いてはいけない、開かれたパンドラの箱。最後に何が残っていたのか、王はご存知ですか」
「……これは、くだらないことを」
「くだらなくとも結構。それが僕の唯一の望みです」
 少年は感情なくそう答えると、槍を振るう。闇色の光が、漆黒の刃を包み込んで、オパールのようなさんざめく輝きを産んだ。
「いいでしょう。多少は楽しめそうです。ヴァレス=ヴィースト、貴殿の相手になりましょう。
 人の産んだ悪魔がどれほどのものか、私の目に見せてください」
「戯言はいい加減にして頂きましょう、木偶の王。人形の王しか語れぬ者に、何が試せるものですか」


「く……っ!」
 時間が経つほどに、左肩に受けた痛みは引くどころか、むしろカノンの行動力を奪っていた。血液を失って朦朧とする意識が、なけなしの感覚さえも奪いつつある。
 ふらつく足元を庇いながら、なるたけ女の視界から隠れようと木々の合間を縫う。だが、あんな相手にどこまで通用しているのかわからない。
 木々の向こうで、少女と女の立てる轟音が響いている。恐怖と、そして遠ざかる意識が、奇妙な諦観を連れて襲い掛かっていた。
 傷も増え、小さな傷はひりひりとした痛みを、大きな傷はじくじくと熱の篭った痛みを、カノンの身体に与えてくる。これが戦場なのか、と改めて思い知らされる痛み。

 もう諦めてしまおうか。

 殺されたくない潜在意識と、意思とが、痛みと恐怖の前に折れていく。死んでしまえば、こんな胸の痛みも、身体の痛みも、感じなくて済むのだ。
 この罪悪感も。苦痛も。何も考えなくて。
 なら、いっそ――
 殺された方が――
 そうしてしまった方が――

『……彼は、何と言っていましたか?』

 ――……。
 短剣を握り締めていると、少年の言葉が脳裏を通り過ぎた。
 彼は、何を思ってそんな言葉を口にしたのだろう。彼は何も話してくれなかった。切なくなるほどに、何も口にしてくれなくて。
 身体も、心臓も、ボロボロになって。
 記憶が戻ればこの剣を、この大きな刃を振るえるというのだろうか。そんなことが、本当に私に出来たのだろうか。
「……っ、ひ、っく……ぅ」
 泣いてる暇なんてないとわかっているのに、涙が滲んでくる。そんな場合じゃないとわかっているのに、頭は理解しているのに、勝手に溢れてくる雫は止められなくて。
 私は、何をしたらいいというのだろう。

『……すまない、俺は、……』

 そう、彼は謝っていた。ひどく耳につかない、謝罪の言葉。彼は何を罪としていたのか。罪とするくらいなら、すべて話して欲しかった。この得体の知れない切なさを、取り除いて欲しかった。
「……ぅ、ひくっ……」
 灰色しか見えない世界で、涙を拭う。その刹那、
「人間っ!」
 少女の切るような声が飛んだ。はっ、とカノンは顔を上げる。涙の雫が飛んだ先に、



 禍々しく光る、紫の弓矢の切っ先があった。



 ――っ!
 凍りついたように身体が動かなくなった。
 けれど、どこかで何かが囁く。
 これで、楽になれるんだ、と。
 これで、何も考えなくて、苦しまなくて済むのだ、と。
 すべてに目を閉じてしまえばいい。罪も、想いも、人も、血も、何も見なくていい。暗闇だけが、愛してくれる世界に行ける。
 そう、思って、目を、閉じて。

 誰かの、声が、聞こえた気がした。

『あたしにとっては―――
 どんな理由があろうと、あんたたちは、あたしの幼馴染で、大事な仲間なの』

 あれは、誰の声だっけ。
 ぱきん、と頭の中で声がする。目の前に迫る矢が、唐突にスローになったように動かなくなって。
 また、声が一つ、二つ。

『あたしは戦えとも、勝てとも言わない。でも、これだけは守って、忘れないで』

 聞いた事がある言葉。聞いた事のある声。
 知ってる。私は――否、あたしは、この言葉を誰よりも知っている。誰よりも言いたかった。誰に対しても想っていた。ただ一つの願いだった。この言葉の続きを、知っている。



『――生き残って、必ず』



「……」
 知っている。知っていた。
 あたしは誰よりも死を恐れながら、誰よりも死を望んでいた。いつかもそう。罪の意識から、自分の苦しみと痛みから逃げる為に、それを望んだ。
 けれど、けれど――

『お前が発端で起きた起きた事件も、不幸になった人間も、俺は数え切れないほど見て来た。
 それがお前の意思ではなくともな』

『だが、それ以上に……救われた人間も、町もある』



 それで、もう一度、剣を取れたんだ。



 覚えてる。いや、覚えてた。
 それを言ってくれたのは、あたしを知っててくれたのは、ずっと見てきてくれていたのは、彼だったんだ。
 彼は、何と言っていましたか?
 もう一度、少年の言葉が蘇った。彼は、あの人は、何と言っていた。何も言っていなかった? そんなのは、私が作り出した嘘だ。
 言っていた。紫の矢に貫かれながら、私を庇いながら、守りながら、掠れた声で、言っていたじゃないか。
 聞こえていた。けれど、罪の意識と心臓の痛みで、何も見えていなかった。何も見ようとしていなかった。何かを言って、と言いながら、私が何も見ていなかった。

『かの……ん』

 聞いている。知っている。何よりも、あたしが願っていた。







『お前は、生き残れ――』














 ちりん、と胸元で、音が、弾けた。








 ぞぉんっ!!

「!」
 女は無表情の瞳を動かして、小さく驚いた。切り裂かれた紫の禍々しい光が、飛び散って、灰色の空間に散る。
 紫の光を貫いた、黒い鎌の刃が、灰色の空間さえも切り裂いて、木上の女へと疾走する。刃の許に、黄金の残像を描きながら。
「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「な……っ!」
 女が初めて動揺して声を漏らした。
 金色の髪を靡かせて、黒の障気を刃に託して、カノンは女の弓矢へ己の刃を振り下ろす。

 ざんっ!

 動揺があったのだろう。女は慌てて弓を手放して、後退った。木の上から跳び退り、林の中へ逃げ込もうとして。
「木偶は、滅びなさいです」
「――っ!」
 逃げ込もうとした先の、歪んだ空間の中に、少女の無簡素な顔が浮かび上がる。
 少女はそのまま、無慈悲に、両手の三日月を彼女の身体へと突き刺した!
「あ、ひ……ひぎぃいいぃいいっぃぃぃぃいぃいっ………っ!!」
 その悲鳴は、悲鳴にも聞こえない、どこか歪んだものだった。飛び散るはずの血液は、ただの紫の塵に変わり、突き刺された黒い刃へと吸収されていく。
 悲鳴をあげながら女は滅茶苦茶に手足を暴れさせたが、無駄な抵抗なようで。
 ひん剥かれた目が、これまで無表情だった女のものとは思えないほど醜悪に歪んで。
「――」
 もう一度、少女の声が何かを呟くと、また耳障りな悲鳴をあげて、女は紫色の塵になって、消えた。
「っ!」
 カノンは木の上から飛び降りる。女の飛び込んだ獣道の上に、細く紫の光が立ち上る、小さな木作りの木偶人形が落ちていた。
 ぼろぼろに砕かれたそれを、両手に黒い刃を収めた少女がじっと見詰めている。
「……人間、じゃ、なかったのね」
「……同じです」
「え?」
 さして興味もないように、シャルと呼ばれた少女は、その木偶人形を摘み上げた。
 そうして、
「!」
 小さな唇で、人形を加えると、そのまま何の慈悲もなく、音を立てて噛み砕く。木の砕ける音が、骨の折れる音にも聞こえて、嫌にカノンの耳についた。
 完全に光塵となった人形を、そのままぺろり、と飲み下すと、少女は満足げにドレスの袖で口元を拭う。
「どうせ、すべて、砕けて消えるのは。同族同士で食い合うのは。所詮、人間と同じです」


「シャル! カノンさん!」
 灰色の空間が崩壊して、また元の木漏れ日が差し込んで。
 がさがさと藪を裂いて、少年がこちらに向かって駆けて来る。槍を仕舞い込んだその姿に、
「っ!」
「お前――っ!」
 カノンの、剣鎌の刃が突きつけられた。
 瞬時に殺気を噴出した少女に対して、少年は眉を潜めて片手を挙げ、彼女を諌める。カノンは碧い瞳を吊り上げて、少年を見上げた。
 少年はふむ、と一呼吸置いて、カノンを見つめ、
「……思い出した、のですか? 自力で」
「……いいえ」
 カノンは静かに答えて首を振る。
「でも、思い出したこともある」
「……」
「あんたが、あたしの敵だった、ってこと。それから――」

「あたしの記憶を封じたのが、あんただ、ってこと」

 少年は悪びれもせずに肩を竦めて見せた。カノンは小さく唇を噛んで、掲げた刃は下ろさないままに、
「どういうつもり? あたしの記憶を奪って、あんたに何の得があるの?
 それに……」
「……」
「それに、昨日のあの人は、彼を、あたしは知ってるわ。ずっと傍にいた。彼に何をしたの?」
 低い声で、刃を煌かせながら問いかける。少年は背筋を伸ばしたまま、木漏れ日に目を細めながら、横に首を振った。
「そこまで思い出せるとは……貴方はいくつも僕の期待を裏切ってくれる」
「戯言はいいのよ。聞きたいのはそんなことじゃない」
「彼は貴方の傍を離れました。貴方を守る為にね」
「……あたしを守る為?」
「それ以上は、今は語れません」
「……」
 少年は刃に怯む素振りもなく、小さな笑みすら称えながら、すらすらと答えて見せた。カノンは少年を睨みながら、舌打ちをする。
「……ヴェッセル――"器"って何? あたしを、どうするつもり?」
「とあるところに出向いて頂きたいのです」
「最初からそのつもりだったわけね」
「貴方を連中から守る為、というのも嘘ではありませんよ」
「嘘ではない、っていうのは真実でもない、って言ってるのと同じよ」
「仰る意味は解ります。けれど、不完全な記憶だけの貴方に、僕を脅す以外に何が出来ますか?」
「……っ」
 カノンは一度、鎌を滑らせると、刃を背中へと収めた。少女の射るような殺気が背中から伝わってくる。脅されているのは、少年ではない。カノンもなのだ。
 カノンは辺りを見回して、小さく息を吐いた。
「……あの男は」
「消えました。手勢を削られたわけですから、しばらくは姿を見せないでしょう。
 元々、さほど情熱と信念のある方ではありませんしね。
 もう来ない、という保証は致しませんが」
「……わかったわ。あんたたちに従う。でも、条件があるわ」
「何でしょう?」
「……あんたたちの目的が果たせるまでは、従う代わりに、あたしの命の保障をしてくれること。それから危険を感じたら、あたしはあんたたちを裏切ってでも生き延びる」
「結構です。元から、ただで貴方を従えさせられるとは思っていませんよ」
「それからもう一つ。あたしをどこに連れていくつもりか、それくらいは教えてもらって構わないわよね?」
 少年がすっ、と黒曜の瞳を開いた。少女の殺気が一際大きくなる。カノンは無言のまま、貼り付けたような表情の少年を凝視した。
 戻っていた鳥の声が、ちりりっ、と近くの梢から上がった。
 飛び立った鳥が落とした木の葉が、はらり、と下生えの中へ、螺旋を描いて、落ちた。



「……神聖なる鬼の間。シンシア領、護法神殿ディーダヘ」




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★ プロフィール
HN:
梧香月
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性別:
女性
趣味:
執筆・落書き・最近お散歩が好きです
自己紹介:
ギャグを描きたいのか、暗いものを描きたいのか、よくわからない小説書き。気の赴くままにカリカリしています。
★ 目次
DeathPlayerHunter
         カノン-former-

THE First:降魔への序曲
10 11Final

THE Second:剣奉る巫女
10 11Final

THE Third:慟哭の月
10 11 12 13 14 Final


THE Four:ゼルゼイルの旅路
  3-01 3-02   6-01 6-02    10 11-01 11-02 12 13 14 15 16 17 18 19  20  21 …連載中…
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