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DeathPlayerHunterカノン[慟哭の月] EPISODE13
それが、悪魔の仕掛けた最悪の罠。
それが、悪魔の仕掛けた最悪の罠。
シリアの印が、彼女の眼前に青い光弾を作り出す。
「シルフィードッ!」
「おぉぉぉぉぉッ!!」
高く放った一声に呼応して、数条の光の弾丸は、収束しながら黒い胸板へ向かって飛んだ。その軌跡を追うように、双剣を担いだアルティオが走る。
それに合わせて、小さくカノンは『魔変換』の呪を紡ぐ。
収束した青い光の刃が、悪魔の胸板に到達する。が、
「な―――ッ!?」
シリアがくぐもった声を上げる。ゆらりと、胸板の寸前で空間が揺らめいた。青い光はその振動で出来た『盾』に阻まれ、光力を失う。じゅ、と焼け石に水をかけたような音を立てて、シリアの生んだ光は空に消えた。
当然、胸には傷一つない。
「な、何よあれッ!?」
「闇雲に撃っても無駄ッ!! あれの『盾』はあらゆる魔力を弾き返すのッ!
だから以前も封印して、特別処理することで流出を防いだのよッ!」
「く……ッ! そんなの聞いてないわよッ!!」
印を描いて、発動を抑えていたルナが怒鳴る。
ぎぎぃんッ!!
「くぅ……ッ」
アルティオの双剣を、悪魔は両腕を交差させて防ぐ。その彼の背後で、黒い刃を携えたカノンが跳躍する!
「覇ぁぁぁぁぁッ!!」
ばちッ!! ばちばちばちぃ……ッ!!
「―――ッ!!」
頭上に振り上げられた刃は、シリアの呪を防いだものと同じ盾に防がれる。ぎりぎりと、盾に食い込む刃。しかし、破るには至れない。
―――『変換』された魔力まで防ぐっての……ッ!? く……ッ!!
ぎらり、と赤い瞳が、頭上のカノンを見上げた。
どんッ!!
「ッきゃぁぁぁぁぁッ!?」
「カノン!」
見えない衝撃波が、小柄な彼女の身体を吹き飛ばした。そのまま後方の石床に打ちつけられる。アルティオの焦燥の悲鳴が漏れた。力任せに交差された両腕を振り払い、アルティオは跳び退る。
ルナがようやく呪を発動させたのは、このときだった。
「我放つ、穿つは破壊の境界、砕けメガブラスターッ!!」
手加減なしの赤色の閃光が、がら空きの悪魔の腹に向かう。
しかし、
ばしゅッ!!
「く……ッ!」
虚しい音を立てて、その赤い光もまた虚空へと四散する。圧倒的な破壊力を持つ魔道でも、届かなくては意味がない。
「やっぱり、硬い……」
「まったく、面倒なものを復活させてくれたわね……」
肩口を押さえながら、カノンが立ち上がる。叩きつけられる寸前で受身は取れたらしい。
ちらり、とその視線を脇に投げ、ふっ、と息を吐く。
「カノン! 大丈夫かッ!?」
「ええ、大丈夫……。けど、まともに相手してらんないわね……」
魔道でも、剣でも、個々の能力でも破れない盾。加えて厚い装甲と跳び抜けた身体能力。
―――方法は三つ。一点集中で『盾』を砕くか、分散攻撃で必中を狙うか。あるいは……
「……」
カノンは一瞬だけ、瞑目する。くぐもった、地を這うような声をさえずる悪魔が、身を低く構え、正面に鎮座している。
ちゃき、と刃を構え直し、再び走り抜けて特攻した。
少女の刃が、まっすぐに悪魔に向かっていく。金の髪が靡いて、碧い瞳が迷いなく黒い壁へと激突する。
「……」
強大な悪魔の影から、それを眺めながら、イリーナは苦痛に顔を歪める。
短い呼吸を繰り返す。消耗が激しい。大量に魔力を消費するとは聞いた。でも、まさかこれほどとは。
苦し紛れに上げた視界に、かつての親友の姿が見えた。
―――ルナ、ちゃん……
どうして?
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
彼女はあんなに優しかったのに。あんなに優しかったのに、五年という月日は人を変えてしまうものなのだろうか。
「……」
ぽろり、とまた瞼の奥が熱くなる。
駄目だ。これで、これで愛した一人の男を救えるのだ。泣いては駄目だ。こうしなければ、こうしなければ―――。
『あんたは自分にとって都合のいい人間が、都合のいい世界が欲しいだけッ! 自分で描いた夢物語を、他人に押し付けようとしてるだけじゃないのッ!!』
ずきり、と痛む。どこが痛むのか、わからないけれど。
違う、違う……私はあの人を救いたいだけ。大好きな、大好きな人を救いたいだけ。あの人を―――
ずきん……ッ
「ッ!!」
浮かんだ情景に、今度は明確に、体の芯が、胸が、痛みを告げる。
……いつもそうだ。
いつもいつも。
彼を思い出して、思い描くたびに、隣に座しているのは私じゃない、彼女。彼は私の方を見てくれなくて、普段心から笑うことが少ない彼が、珍しく本当に笑っていても、その笑みは私が引き出したものじゃない。
―――う…ッ……
ぽたり、ぽたり、と胸元が得体の知れない雫で濡れる。
親友は優しかった。彼女は優しかった。彼へ向けて悪態を吐くその態度の中に、他の人間には見せないあったかいものがあることを、イリーナは知っていた。たぶん、彼女は知らなかったけれど。
だから、尚更悔しかった。
でも彼女は、イリーナの想いを知って、応援するからと、自分は何も思って無いからと。
だから、その心遣いを利用してきた。彼女は高潔で、誰よりも優しかった。だから、それに寄りかかり、甘えて、利用した。だから自分は、どうしようもなく、ずるくて狡い女だった。
それでもいい。とんでもなく惨めでも、欲しいものが手に入るならと思った。
でも、それが裏切られて。
期待が破られて。
イリーナにとって都合の良い事情を、悪魔は囁いた。
泣いた。
裏切りが痛いと泣いた。そして彼女を罵った。自分は正しいことをしているはずだった。
彼女が嘘を吐いていたのも、イリーナの想いを裏切ったのも本当。
彼女がシンシアという国の人と一緒にいたのも、彼を救いたいと想うイリーナの心も、本当。
……彼が、見ているのは自分じゃないことも。
彼女が、ずっとイリーナのことと同じくらい、彼のことを想っていたのも、きっと本当。
「うぅ……ふ、くッ……」
もうすぐ、これが終わればずっと憧れていた彼が自分のものになってくれる。そのはずなのに、この痛みは何故なのだろう。
もう何も厭うことはないはずなのに。
もうこんな痛み与えないで。
裏切ったくせに。
私の想いを、先輩を、裏切ったくせに。
何で、何で―――
こんなに、"ごめんなさい"と口にしてしまいたいんだろう―――?
楽になりたいと、いや、そうすれば楽になれると思っている自分がいるんだろう―――。
だって、こんなこと最初から知っていた。
彼が自分を見てくれていないことも―――
彼女には到底、正面からじゃ敵わないことも―――
ああ、そうか。知っていた。最初から、知っていた。でも、私は馬鹿だから―――
………理解[わか]ってるけど、納得[わか]っていないのだ。
「ルナ、ちゃん……」
小さく呟いて、視線を上げる。戦っている。自らが呼び出した魔物と戦って、傷付いて、虚ろな目をしながら。
彼女の友人たち。まっすぐで、とても強くて。私だって、彼女の親友だったはずなのに。
―――私は……。………?
そこで、唐突に気が付いた。悪魔と攻防する影が、彼女を含めて、四つしかないことに。
「―――ッ!!!」
気づいた瞬間、背後に気配が生まれる。慌ててイリーナは振り向こうとして、
がっ、と細い肩を掴まれた。しゃきんッ、と澄んだ音がして喉笛に冷たくて、痛みを伴う不思議な感触。思わず顎を逸らす。
「う……ッ!?」
賢明に下を見て、愕然とする。冷たい感触。嫌に鋭い刃。剣の刃先。
ぴたり、と悪魔が動きを止めた。
「……すまないな。あまり手荒な真似はしたくないが、そうも言っていられない」
「……」
耳元で、聞き覚えのある静かな低い声が聞こえた。
「レン、さん……」
いつのまに背後に回っていたのか。無口で静謐な刃を、金の髪の少女の片割れが突きつけていた。
「あれをしまえ。あのままでは、お前のためにもならん。ここで脳に障害でも負ったら、あの男を助けるも何もないだろう?」
「く……ッ!」
強大な敵だとしても、召還獣は召還獣。手持ちのカードで破れないなら、一番手っ取り早いのは術者を抑えること。
元・違法者狩りであるカノンやレンにとっては定石だった。
カノンはレンが悪魔の、イリーナの背後に回れるまでの時間稼ぎが出来れば、それで良かったのだ。
「こん、な……ッ!」
「大人しく投降しなさい……。貴方のためにならないわよ」
「誰が……ッ」
「イリーナッ!!」
悲痛とさえとれる声が、イリーナの耳に届く。はっ、としてそちらを見やると、拳を握り締めたルナが歯を食い縛りながらこちらを見ていた。
裏切ったのは彼女の方なのに、何故、こんな泣きそうになるのだろう。
「ルナ、ちゃ、ん……」
「イリーナ……、もうやめなさい……。あれは、あんたに扱えるものじゃない。
あんたが傷付くだけよ」
「……五月蝿いよ」
「イリーナ……ッ!」
「ッ、そうやって……ッ!」
声が荒ぶる。抑えようのない熱いものが、胸元から押しあがってくる。
駄目だ。救世主となるはずの人間が、吐き出していいものじゃない。そうは思っていても、止まらない。
「そうやって……ッ! そうやって、いっつもいっつも、ルナちゃんは私の先を行って……ッ!!
私に出来ないことを、私には手に入らないものをッ、ルナちゃんは出来て、手に入れて……っ!
どうせ、笑っていたんでしょうッ!? 上手く掌で踊る私を見て、見下して、何にも出来ない、何にも手に出来ない私を見て、どうせ……どうせッ、いつも馬鹿にして笑っていたんでしょうッ!?」
「ッ……」
「何で? 何で先輩まで、ルナちゃんのものになっちゃうの……ッ!?
何で、私は、私は……ッ!
ッ親友面しないでッ!! いつも、今でも私のこと笑ってるくせにッ!! もう甘い顔して友達なんていわないでッ!! 何も期待させないでッ!! どうせ、どうせ……ッ!」
「違うッッッ!!!」
「―――ッ!」
激昂が、洞穴の中でびりびりと響く。雷のように放たれた、ルナの叫びにも似た重い叱咤は、イリーナの耳を、全身を貫いて言葉を止めさせた。
茫然と、イリーナはおそるおそる、激昂を吐き出した彼女を見た。
爪先が白くなるほど握り締めた拳が、小刻みに震えていた。
「あたしは……ッ、あたしはあんたを見下したことなんて一度もないッ! 馬鹿にして笑ったことだってないッ!!」
「嘘ッ! だって……ッ!」
「確かに……カシスとのことは認めるわ。あんたを……騙してたことも否定できない。あたしがつまらない意地を張ったせいで、あんたをここまで傷つけたことを―――情けなく思ってる。
―――ごめんなさい」
「―――ッ!」
「……あたしたちの研究が流出して、それを操っていたのは、黒幕は、エイロネイアの刺客だって話を聞いた。だから、真実を知りたかったから、敵国のシンシアに加担した。
でもッ! それにあんたやカシスを巻き込む気なんてなかったッ! あんたたちには……、あんたたちにはこのまま、帝国で平和に暮らして、生きていてくれればそれで良いと思った。
……それが出来なかったのは、あたしが、弱かったから。何も出来ないのは、あたしの方よ。
結局、あんたをこんなにして、巻き込ませてしまった。
あたしだって、もうどうすればいいのか解らない。でも、これだけは言える」
ルナは俯かせていた面を上げる。緑青の瞳を、泣き崩れた少女の真っ赤になっている大きな瞳と交わらせて、はっきりと言い放つ。
「あたしはッ! あたしはあんたを何も出来ない人間だなんて思ったことは一度もないッ! 今だって、大事な可愛い妹分だと思ってるッ!
何でもっと早く、本当のことを言わなかったのか後悔してる……ッ! あたしはもうこれ以上、あんたと戦いたくなんてないッ!!」
「・・・ッ!」
叫んだ後、ルナはふっ、と力が抜けたように息を吐いた。瞳に涙を讃えていたイリーナは、信じられないものを見たような目で、小さく震えながら、その彼女を見ていた。
ルナは、もう一度顔を上げて、ゆっくりと手を差し伸べながら、ぎこちなくも優しい笑みを浮かべ、
「……イリーナ、お願い。もう一度、あたしにチャンスをちょうだい。
それで、ちゃんと話し合いましょう? 今度は、嘘なんて吐かない。もう一度だけ、二人で話を、しよう? あたしに、ちゃんと謝らせて欲しいの。勝手だけど、一生のお願いよ……」
「……ッ」
ぐらりと視界が揺らいだ。痛い、いたいイタイイタイ……
とんでもなく、胸が痛い。
少し前なら、その細い腕に迷うことなく縋ることが出来たのに。力が抜けていく。
「………私…、わた、し、は………」
ほんの僅か、彼女の瞳に理性の色が灯る。その僅かだけれど、救いの色に、カノンはほっとしてシリアやアルティオと視線を交わした。
軽く首を振って、レンが剣を収め―――
―――ようとして。
きんッ!!
「ッ!?」
棒立ちだった悪魔の足元に、小さく音を立てて、赤く不気味な刻印を描く魔法陣が広がった。
「な、何……ッ?」
「え……?」
ぎょ、としてイリーナが声を漏らす。その驚嘆の一言に、この陣が、彼女の張ったものではないことを物語っている。
カノンの胸を、嫌な予感が掠めて走る。クオノリアで生み出された、あの『ヴォルケーノ』を利用して造られた合成獣。あのとき、あの獣は、制御を無くして暴走した。
―――いけない!
カノンは剣鎌[カリオ・ソード]を構えて走る。だが、それより早く、悪魔は泣き濡れた少女を意志なき瞳に映した。
ごうッ!!
「ッ! しまった……ッ!」
悪魔は太い片腕を、イリーナを拘束していたレンへと叩き付けた。すんでで避けた彼は、しかし、風圧で後ろまで飛ばされて、その彼に支えられていたイリーナはバランスを崩してころん、とその場に転がった。
カノンの刃は―――間に合わない。
どしゅ……ッ!!
「ッ、あ……ぁ、あ……?」
小さな呻きが漏れて、時間が、止まった。
ぼたり、と暗い床に、赤黒い斑紋が広がった。吊り上げられた少女は、何が起こったのか解らないといった表情のまま、茫然と自らの胸を見る。
鋭く伸びた、悪魔の腕に生えた刃。その歪なラインを描く刃が、少女の体を貫いて、吊り上げて、赤い斑紋を描いていた。
「ぁ……あ、い、ああああああああああッ!?」
「イリーナぁぁぁッ!!」
「ルナッ!」
悲痛の叫びが重なった。衝動的に駆け出そうとしたルナの身体を、慌ててアルティオが抑えた。
カノンは唇を噛み締めて、その悪魔を見上げ―――
目を丸くする。
ぞくり、どくり………
岩肌が、イリーナの身体を抱え上げた悪魔のその腕の脈が、どくり、どくりと異様に波を打っている。そして、
びゅるッ!!
「ッ!?」
「な……ッ?」
不自然な、深い緑色をした脈が、そのまま腕から突き出した。びちゃり、とその気色の悪い脈から漏れた体液がイリーナの頬と服を、周囲の岩肌を、濡らす。
そして、その脈はずるり、と孤を描き、掲げられた少女の身体に突き刺さった。びくんッ、と彼女の体が痙攣する。
「あ、ぁ……ああ………」
どくんッ、と脈が鳴るたびに、イリーナの体が苦しげに痙攣する。ぼたり、と緑色をした体液が、脈の間からまた漏れた。
「イリーナぁッ!!」
ルナの叫びに、はっ、と気がついたカノンが刃を持ち上げて跳んだ。狙いは、脈と彼女の身体を拘束する太い腕。
振りかぶったその銀の刃を、渾身の力を込めて叩きつける!
が、
ぎんッ!
「……くッ!」
腕を中心として『盾』が広がる。腕にかかる圧力に、カノンの顔が苦悶に歪んだ。
イリーナの瞳から、光が、消えた。
瞬間、
悪魔の足元に広がった魔方陣から、膨大な赤い光が放たれた。
どれくらい目を閉じていたのか。
一瞬であることを願いたい。再び、吹き飛ばされて、赤い光に目を瞑っていた。我に返って身を起こした時には、既に赤い光は消えていて、馴れない暗闇に目を擦る。
そして、つい先ほどまで悪魔の鎮座していた場所を見やって―――
「・・・ッ! な、何で……ッ?」
言葉を、失った。
「い、イリーナ……ッ」
絶望的な呻きが、ルナの口から漏れた。アルティオも、シリアも、そしてレンさえも絶句してそれを見上げていた。
そこにいたのは、悪魔だった。
ああ、そうだ。悪魔だ。先ほどと同じ悪魔だ。
けれど、その肩口や脳天からはいつかと同じ、赤い、赤い亀裂が走って、細い眼は蠢くようにぎょろりぎょろりと動いていて、だらだらと足元に汚らしい黒とも緑ともつかない体液を垂らしている。
そして、最も異様だったのだのは。
その右の肩口に、そこだけ埋め込んだように、人間の上半身がめり込んでいた。
いや、違う。上半身だけが無事で、そこから下が悪魔の体の中に飲み込まれているのだ。肩口にぽっかりと開いた、二つ目の口に。脈のような触手が蠢いて、上半身をも飲み込もうと暴れている。
その上半身は、蜂蜜色の髪を振り乱して、眠るように目を閉じて、赤い血を流して、顔に、幼くそばかすを張りつけた、
「いッ、イリーナぁッ!!」
「な、何よ、これ……ッ!」
「こ、こいつは……ッ! ど、どういうことなんだッ!? おい、ルナッ!?」
半狂乱で囚われた友人の名を叫ぶ彼女に、なけなしの冷静さを振り絞ってアルティオが怒鳴る。しかし、彼女はやはり半狂乱でぶんぶん首を振るだけだった。
こんなものは知らない。
後付された、醜悪で、あってはならない悪魔の機能。
飲み込まれている。人が、彼女が、あの悪魔に、自ら召還したはずの合成獣に―――喰われているのだ。
ぎしゃぁああぁぁぁぁあぁあぁあぁああぁッ!!
無情を語るように、獣の雄叫びが上がる。
黒の少年は、もう既に、用意していたのだ。最後の、最悪な、悪魔の罠を。
「―――くッ!」
カノンは剣鎌[カリオ・ソード]を握り締める。とにかく、止めなくては。まだ完全に取り込まれたわけじゃない。急げば助かるかもしれない。一抹の希望であっても。
シリアとアルティオに激を飛ばす。アルティオは武具を構えて悪魔に向き直り、シリアは慌てて呪を紡ぎ出す。ルナの方を向く。
「ルナッ!! 止めるわよッ!! 急げばまだ間に合うかもしれないッ!!」
「くッ、け、けど……ッ! このまま倒せても……ッ!!」
ただ彼女を巻き込むだけになりかねない。迷いと、絶望が、きりきりと音を立てて彼女を覆う。
「ルナッ!!」
「ッ!?」
暗闇を切り裂くように、ルナの手元へ光る物が飛来した。反射的に受け止めると、それは、あの悪魔を封じていた小さな鏡だった。
鏡を拾い上げ、投げた本人―――レンは剣を携えながら怒鳴った。
「全員でサポートする。あれを封じてしまえッ!!」
「け、けど……ッ!」
「使ったら、あの娘も巻き込むの?」
「い、いや、封印具は悪魔の気にしか反応しないはず……ッ! たぶん、大丈夫だとは思うけど……ッ!」
「じゃあ、迷うことないでしょうッ!? 早くしないとッ!!」
「でも、あのときとは場合が―――ッ!」
レンの整った眉がつり上がる。次の瞬間、
「馬鹿かッ、貴様はッ!!」
普段の彼らしからぬ音量で、激が飛んだ。
「ここにいる全員が諦めてないんだッ! 貴様が真っ先に諦めてどうするッ!?
貴様の覚悟は、ルナ=ディスナーは、所詮、その程度の魔道師かッ!!?」
「・・・!」
侮辱にも等しい叱咤に、ルナは歯を食い縛る。彼女を飲み込みつつある悪魔を見上げる。
痛々しい姿に、汚れていく蜂蜜色の綺麗な髪に、ぎりぎりと胸が締め付けられた。
「ルナ」
「……」
「やろう。あたしたちを自由に使ってくれていいッ! 全力で、力を貸すよッ?」
「……ッ」
幼馴染で、妹分だと思っていた少女が、大人びたまっすぐな力強い瞳を向けてくる。
手の中の手鏡が、小さな音を立てる。それに映る自分の姿は随分とちっぽけで、惨めだった。
でも。
「―――」
ぎゅ、と力を込めて、彼女はその鏡を握った。
ぎゃしゃあああぁあぁぁぁぁッ!!!
「ぅおおおおおッ!!」
悪魔の咆哮と、アルティオの走り抜ける叫びが重なる。悪魔は頭を振り上げながら、左腕で彼の右の剣を受け止める。
ぎぎんッ!!
鈍い音で岩の肌と剣が軋み合う。僅かな瑕をつけるだけで留まった。アルティオは構わず、左のもう片方の剣を悪魔の体の側面へと叩きつける!
きんッ!!
『盾』が空を歪めて、その刃を受け止める。ぎりぎりと軋み合う双方の刃に、しかし、アルティオは小さく笑みを浮かべた。
「カノン!」
「覇ぁぁぁぁぁッ!!」
特攻をかけたアルティオの軌道から大きく外れたカノンが、刃に黒い力を携えて、悪魔の背後から切りかかる。悪魔のぎょろり、とした目がその残像を捕らえた。
きゅいん、と音がして、背後にもう一つ『盾』が具現化する。
「くッ!」
カノンは寸前で刃を止めて、後ろへと下がる。アルティオは刃を軋ませたまま、額に脂汗を浮かせて、唇を噛んだ。
「我望む、切り裂くは烈風の残歌、唸れフォーンバラッドッ!」
シリアの声が飛んだ。その呪が、アルティオの周りに白く空の弾を浮き上がらせる。刃を逸らせたアルティオは、その場にしゃがみ込む。
どむッ!!!
くぐもった音と共に、空弾が爆縮する。わずかに悪魔が怯んだその隙に、アルティオは引いて、構え直し、再び斬りかかった。
カノンは引いて、悪魔の正眼に回る。そして小さく、『魔変換』の呪を紡ぎ出す。
『盾』に向かって、刃を薙ぎ払ったアルティオが、不意に脇に逸れた。
「我放つ、貫くは勇なる炎華の矢、放てフレアアロー!」
きゅどどどどッ!!
そこへ、シリアの炎の矢が降り注ぐ。だが、それも、視えない『盾』に阻まれて虚しく散った。
アルティオの舌打ちが聞こえた。
――― 一点集中でも砕けない。『盾』は一つじゃない。
カノンの表情が歪む。
悪魔が、何事か呻いた。ぐにゃり、と胸の前の空間が歪む。ぼうッ、と浮かぶ紫色の光が見えた。暗闇に浮かぶ、魔力の光。
アルティオが引いた。
じゃき、と傍らで音がした。レンが破魔の剣を構えるところだった。
「……お願いね」
「お前もな」
シリアとルナの呪が、小さく背後で聞こえる。カノンは構えた剣鎌越しに、その光を睨んだ。レンが、正面から悪魔の胸板を狙って地を蹴った。
緊張が走る。
収束した紫色の光が悪魔の咆哮に呼応して、直線に放たれた。
ごうッ!!
身を屈めたレンの脇を、魔力光が通過する。棚引いたマントの端を焼いて、魔力光は彼の背後へと伸びる。
正面からその光を受け止めたのは、カノンだった。
「ッああああああああッ!!」
ぎりぎりを読みきって、魔力光の中へ刃を躍らせる。びゅるッ! と風を切る音がして、紫の光は黒へと姿を換え、渦巻いて、彼女の銀の刃へと収束した。『魔変換』の呪によって、悪魔の生み出した力が、カノンの力へと変換される。
同時に、カノンはレンを追って走る。
その間に、レンが振り上げられる悪魔の腕を交わし、懐へと飛び込む。
『盾』の形成に、空間が歪む。
シリアの呪が完成したのは、このときだった。
「我求む、奪うは強者が讃えし異能の力、失せよカオティックイレーズッ!!」
『盾』の真正面に、真っ白な光が浮かぶ。普段は術の解呪に使われる魔法だ。レンの剣は魔を否する護符の剣。
術と剣、二つが重なったとき、相乗効果はあらゆる魔力を奪い取る。
形成された、魔力の『盾』もまた、例外ではない。
ばぎッ!!
鈍い音を立てて、レンの一振りで『盾』が霧散する。新しい『盾』を生むために、空が歪む。
だが、それが形成されるより先に、レンを追うようにして走り抜けたカノンの刃が、彼の脇をすり抜けて、悪魔の、その無傷だった腹に突き刺さった!
ぎゃぁあぁぁああぁああぁぁぁぁッ!!!
悪魔の耳を裂くような声が轟く。しかし、カノンは少し表情を歪めただけで、刃に更なる力を込める。
「覇あああああああああああッ!!」
絶叫して、力任せに悪魔を刃で押し倒す。そして、その岩の肌を、冷たい石床に縫い止めた。
「ルナッ!」
後方のシリアの声と共に、きんッ、と音がして小さな鏡が頭上に投げられる。手を広げたルナに呼応して、悪魔を中心として、巨大な黄金の魔方陣が広がった。
光が走り、複雑な紋様を描きながら、魔力を高めていく。
悪魔が苦しげに呻く。肩口に張り付いた、蜂蜜色の髪がそれに合わせて揺れた。逃げようともがく悪魔の身体を、カノンは己の腕一本で必死に押さえつける。
その耳に、ろうろうと、呪が響く。
「―――時を統べるもの、大地を統べるもの、宙を統べるもの、生命を統べるもの。
久遠を制する零弦の遙か、永現の槍、無知なる翼。
聖なる黄金を律する天使の在り処、此処に封じるは七つの大罪たる堕落の悪魔。
魔を統べる二つの月よ、我嘆かんと嘆くのならば、六大天の怒りと裁きを具現しさしめよ―――」
ルナは奥歯を噛み締める。減少していく魔力。魔力も、そして体力も限界を迎えていた。口の中に鉄錆の味。込み上げる吐き気は、尽きた魔力の証拠。
しかし、最後の力を振り絞って、その呪を紡ぐ。
「我求む、律するは黄金の天使、封ずるは闇黒の悪魔、誘え―――ッ」
「デモンズシールッ!!」
黄金の魔方陣が、洞穴を埋め尽くすまでの、眩い光を放った。
←12へ
「シルフィードッ!」
「おぉぉぉぉぉッ!!」
高く放った一声に呼応して、数条の光の弾丸は、収束しながら黒い胸板へ向かって飛んだ。その軌跡を追うように、双剣を担いだアルティオが走る。
それに合わせて、小さくカノンは『魔変換』の呪を紡ぐ。
収束した青い光の刃が、悪魔の胸板に到達する。が、
「な―――ッ!?」
シリアがくぐもった声を上げる。ゆらりと、胸板の寸前で空間が揺らめいた。青い光はその振動で出来た『盾』に阻まれ、光力を失う。じゅ、と焼け石に水をかけたような音を立てて、シリアの生んだ光は空に消えた。
当然、胸には傷一つない。
「な、何よあれッ!?」
「闇雲に撃っても無駄ッ!! あれの『盾』はあらゆる魔力を弾き返すのッ!
だから以前も封印して、特別処理することで流出を防いだのよッ!」
「く……ッ! そんなの聞いてないわよッ!!」
印を描いて、発動を抑えていたルナが怒鳴る。
ぎぎぃんッ!!
「くぅ……ッ」
アルティオの双剣を、悪魔は両腕を交差させて防ぐ。その彼の背後で、黒い刃を携えたカノンが跳躍する!
「覇ぁぁぁぁぁッ!!」
ばちッ!! ばちばちばちぃ……ッ!!
「―――ッ!!」
頭上に振り上げられた刃は、シリアの呪を防いだものと同じ盾に防がれる。ぎりぎりと、盾に食い込む刃。しかし、破るには至れない。
―――『変換』された魔力まで防ぐっての……ッ!? く……ッ!!
ぎらり、と赤い瞳が、頭上のカノンを見上げた。
どんッ!!
「ッきゃぁぁぁぁぁッ!?」
「カノン!」
見えない衝撃波が、小柄な彼女の身体を吹き飛ばした。そのまま後方の石床に打ちつけられる。アルティオの焦燥の悲鳴が漏れた。力任せに交差された両腕を振り払い、アルティオは跳び退る。
ルナがようやく呪を発動させたのは、このときだった。
「我放つ、穿つは破壊の境界、砕けメガブラスターッ!!」
手加減なしの赤色の閃光が、がら空きの悪魔の腹に向かう。
しかし、
ばしゅッ!!
「く……ッ!」
虚しい音を立てて、その赤い光もまた虚空へと四散する。圧倒的な破壊力を持つ魔道でも、届かなくては意味がない。
「やっぱり、硬い……」
「まったく、面倒なものを復活させてくれたわね……」
肩口を押さえながら、カノンが立ち上がる。叩きつけられる寸前で受身は取れたらしい。
ちらり、とその視線を脇に投げ、ふっ、と息を吐く。
「カノン! 大丈夫かッ!?」
「ええ、大丈夫……。けど、まともに相手してらんないわね……」
魔道でも、剣でも、個々の能力でも破れない盾。加えて厚い装甲と跳び抜けた身体能力。
―――方法は三つ。一点集中で『盾』を砕くか、分散攻撃で必中を狙うか。あるいは……
「……」
カノンは一瞬だけ、瞑目する。くぐもった、地を這うような声をさえずる悪魔が、身を低く構え、正面に鎮座している。
ちゃき、と刃を構え直し、再び走り抜けて特攻した。
少女の刃が、まっすぐに悪魔に向かっていく。金の髪が靡いて、碧い瞳が迷いなく黒い壁へと激突する。
「……」
強大な悪魔の影から、それを眺めながら、イリーナは苦痛に顔を歪める。
短い呼吸を繰り返す。消耗が激しい。大量に魔力を消費するとは聞いた。でも、まさかこれほどとは。
苦し紛れに上げた視界に、かつての親友の姿が見えた。
―――ルナ、ちゃん……
どうして?
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
彼女はあんなに優しかったのに。あんなに優しかったのに、五年という月日は人を変えてしまうものなのだろうか。
「……」
ぽろり、とまた瞼の奥が熱くなる。
駄目だ。これで、これで愛した一人の男を救えるのだ。泣いては駄目だ。こうしなければ、こうしなければ―――。
『あんたは自分にとって都合のいい人間が、都合のいい世界が欲しいだけッ! 自分で描いた夢物語を、他人に押し付けようとしてるだけじゃないのッ!!』
ずきり、と痛む。どこが痛むのか、わからないけれど。
違う、違う……私はあの人を救いたいだけ。大好きな、大好きな人を救いたいだけ。あの人を―――
ずきん……ッ
「ッ!!」
浮かんだ情景に、今度は明確に、体の芯が、胸が、痛みを告げる。
……いつもそうだ。
いつもいつも。
彼を思い出して、思い描くたびに、隣に座しているのは私じゃない、彼女。彼は私の方を見てくれなくて、普段心から笑うことが少ない彼が、珍しく本当に笑っていても、その笑みは私が引き出したものじゃない。
―――う…ッ……
ぽたり、ぽたり、と胸元が得体の知れない雫で濡れる。
親友は優しかった。彼女は優しかった。彼へ向けて悪態を吐くその態度の中に、他の人間には見せないあったかいものがあることを、イリーナは知っていた。たぶん、彼女は知らなかったけれど。
だから、尚更悔しかった。
でも彼女は、イリーナの想いを知って、応援するからと、自分は何も思って無いからと。
だから、その心遣いを利用してきた。彼女は高潔で、誰よりも優しかった。だから、それに寄りかかり、甘えて、利用した。だから自分は、どうしようもなく、ずるくて狡い女だった。
それでもいい。とんでもなく惨めでも、欲しいものが手に入るならと思った。
でも、それが裏切られて。
期待が破られて。
イリーナにとって都合の良い事情を、悪魔は囁いた。
泣いた。
裏切りが痛いと泣いた。そして彼女を罵った。自分は正しいことをしているはずだった。
彼女が嘘を吐いていたのも、イリーナの想いを裏切ったのも本当。
彼女がシンシアという国の人と一緒にいたのも、彼を救いたいと想うイリーナの心も、本当。
……彼が、見ているのは自分じゃないことも。
彼女が、ずっとイリーナのことと同じくらい、彼のことを想っていたのも、きっと本当。
「うぅ……ふ、くッ……」
もうすぐ、これが終わればずっと憧れていた彼が自分のものになってくれる。そのはずなのに、この痛みは何故なのだろう。
もう何も厭うことはないはずなのに。
もうこんな痛み与えないで。
裏切ったくせに。
私の想いを、先輩を、裏切ったくせに。
何で、何で―――
こんなに、"ごめんなさい"と口にしてしまいたいんだろう―――?
楽になりたいと、いや、そうすれば楽になれると思っている自分がいるんだろう―――。
だって、こんなこと最初から知っていた。
彼が自分を見てくれていないことも―――
彼女には到底、正面からじゃ敵わないことも―――
ああ、そうか。知っていた。最初から、知っていた。でも、私は馬鹿だから―――
………理解[わか]ってるけど、納得[わか]っていないのだ。
「ルナ、ちゃん……」
小さく呟いて、視線を上げる。戦っている。自らが呼び出した魔物と戦って、傷付いて、虚ろな目をしながら。
彼女の友人たち。まっすぐで、とても強くて。私だって、彼女の親友だったはずなのに。
―――私は……。………?
そこで、唐突に気が付いた。悪魔と攻防する影が、彼女を含めて、四つしかないことに。
「―――ッ!!!」
気づいた瞬間、背後に気配が生まれる。慌ててイリーナは振り向こうとして、
がっ、と細い肩を掴まれた。しゃきんッ、と澄んだ音がして喉笛に冷たくて、痛みを伴う不思議な感触。思わず顎を逸らす。
「う……ッ!?」
賢明に下を見て、愕然とする。冷たい感触。嫌に鋭い刃。剣の刃先。
ぴたり、と悪魔が動きを止めた。
「……すまないな。あまり手荒な真似はしたくないが、そうも言っていられない」
「……」
耳元で、聞き覚えのある静かな低い声が聞こえた。
「レン、さん……」
いつのまに背後に回っていたのか。無口で静謐な刃を、金の髪の少女の片割れが突きつけていた。
「あれをしまえ。あのままでは、お前のためにもならん。ここで脳に障害でも負ったら、あの男を助けるも何もないだろう?」
「く……ッ!」
強大な敵だとしても、召還獣は召還獣。手持ちのカードで破れないなら、一番手っ取り早いのは術者を抑えること。
元・違法者狩りであるカノンやレンにとっては定石だった。
カノンはレンが悪魔の、イリーナの背後に回れるまでの時間稼ぎが出来れば、それで良かったのだ。
「こん、な……ッ!」
「大人しく投降しなさい……。貴方のためにならないわよ」
「誰が……ッ」
「イリーナッ!!」
悲痛とさえとれる声が、イリーナの耳に届く。はっ、としてそちらを見やると、拳を握り締めたルナが歯を食い縛りながらこちらを見ていた。
裏切ったのは彼女の方なのに、何故、こんな泣きそうになるのだろう。
「ルナ、ちゃ、ん……」
「イリーナ……、もうやめなさい……。あれは、あんたに扱えるものじゃない。
あんたが傷付くだけよ」
「……五月蝿いよ」
「イリーナ……ッ!」
「ッ、そうやって……ッ!」
声が荒ぶる。抑えようのない熱いものが、胸元から押しあがってくる。
駄目だ。救世主となるはずの人間が、吐き出していいものじゃない。そうは思っていても、止まらない。
「そうやって……ッ! そうやって、いっつもいっつも、ルナちゃんは私の先を行って……ッ!!
私に出来ないことを、私には手に入らないものをッ、ルナちゃんは出来て、手に入れて……っ!
どうせ、笑っていたんでしょうッ!? 上手く掌で踊る私を見て、見下して、何にも出来ない、何にも手に出来ない私を見て、どうせ……どうせッ、いつも馬鹿にして笑っていたんでしょうッ!?」
「ッ……」
「何で? 何で先輩まで、ルナちゃんのものになっちゃうの……ッ!?
何で、私は、私は……ッ!
ッ親友面しないでッ!! いつも、今でも私のこと笑ってるくせにッ!! もう甘い顔して友達なんていわないでッ!! 何も期待させないでッ!! どうせ、どうせ……ッ!」
「違うッッッ!!!」
「―――ッ!」
激昂が、洞穴の中でびりびりと響く。雷のように放たれた、ルナの叫びにも似た重い叱咤は、イリーナの耳を、全身を貫いて言葉を止めさせた。
茫然と、イリーナはおそるおそる、激昂を吐き出した彼女を見た。
爪先が白くなるほど握り締めた拳が、小刻みに震えていた。
「あたしは……ッ、あたしはあんたを見下したことなんて一度もないッ! 馬鹿にして笑ったことだってないッ!!」
「嘘ッ! だって……ッ!」
「確かに……カシスとのことは認めるわ。あんたを……騙してたことも否定できない。あたしがつまらない意地を張ったせいで、あんたをここまで傷つけたことを―――情けなく思ってる。
―――ごめんなさい」
「―――ッ!」
「……あたしたちの研究が流出して、それを操っていたのは、黒幕は、エイロネイアの刺客だって話を聞いた。だから、真実を知りたかったから、敵国のシンシアに加担した。
でもッ! それにあんたやカシスを巻き込む気なんてなかったッ! あんたたちには……、あんたたちにはこのまま、帝国で平和に暮らして、生きていてくれればそれで良いと思った。
……それが出来なかったのは、あたしが、弱かったから。何も出来ないのは、あたしの方よ。
結局、あんたをこんなにして、巻き込ませてしまった。
あたしだって、もうどうすればいいのか解らない。でも、これだけは言える」
ルナは俯かせていた面を上げる。緑青の瞳を、泣き崩れた少女の真っ赤になっている大きな瞳と交わらせて、はっきりと言い放つ。
「あたしはッ! あたしはあんたを何も出来ない人間だなんて思ったことは一度もないッ! 今だって、大事な可愛い妹分だと思ってるッ!
何でもっと早く、本当のことを言わなかったのか後悔してる……ッ! あたしはもうこれ以上、あんたと戦いたくなんてないッ!!」
「・・・ッ!」
叫んだ後、ルナはふっ、と力が抜けたように息を吐いた。瞳に涙を讃えていたイリーナは、信じられないものを見たような目で、小さく震えながら、その彼女を見ていた。
ルナは、もう一度顔を上げて、ゆっくりと手を差し伸べながら、ぎこちなくも優しい笑みを浮かべ、
「……イリーナ、お願い。もう一度、あたしにチャンスをちょうだい。
それで、ちゃんと話し合いましょう? 今度は、嘘なんて吐かない。もう一度だけ、二人で話を、しよう? あたしに、ちゃんと謝らせて欲しいの。勝手だけど、一生のお願いよ……」
「……ッ」
ぐらりと視界が揺らいだ。痛い、いたいイタイイタイ……
とんでもなく、胸が痛い。
少し前なら、その細い腕に迷うことなく縋ることが出来たのに。力が抜けていく。
「………私…、わた、し、は………」
ほんの僅か、彼女の瞳に理性の色が灯る。その僅かだけれど、救いの色に、カノンはほっとしてシリアやアルティオと視線を交わした。
軽く首を振って、レンが剣を収め―――
―――ようとして。
きんッ!!
「ッ!?」
棒立ちだった悪魔の足元に、小さく音を立てて、赤く不気味な刻印を描く魔法陣が広がった。
「な、何……ッ?」
「え……?」
ぎょ、としてイリーナが声を漏らす。その驚嘆の一言に、この陣が、彼女の張ったものではないことを物語っている。
カノンの胸を、嫌な予感が掠めて走る。クオノリアで生み出された、あの『ヴォルケーノ』を利用して造られた合成獣。あのとき、あの獣は、制御を無くして暴走した。
―――いけない!
カノンは剣鎌[カリオ・ソード]を構えて走る。だが、それより早く、悪魔は泣き濡れた少女を意志なき瞳に映した。
ごうッ!!
「ッ! しまった……ッ!」
悪魔は太い片腕を、イリーナを拘束していたレンへと叩き付けた。すんでで避けた彼は、しかし、風圧で後ろまで飛ばされて、その彼に支えられていたイリーナはバランスを崩してころん、とその場に転がった。
カノンの刃は―――間に合わない。
どしゅ……ッ!!
「ッ、あ……ぁ、あ……?」
小さな呻きが漏れて、時間が、止まった。
ぼたり、と暗い床に、赤黒い斑紋が広がった。吊り上げられた少女は、何が起こったのか解らないといった表情のまま、茫然と自らの胸を見る。
鋭く伸びた、悪魔の腕に生えた刃。その歪なラインを描く刃が、少女の体を貫いて、吊り上げて、赤い斑紋を描いていた。
「ぁ……あ、い、ああああああああああッ!?」
「イリーナぁぁぁッ!!」
「ルナッ!」
悲痛の叫びが重なった。衝動的に駆け出そうとしたルナの身体を、慌ててアルティオが抑えた。
カノンは唇を噛み締めて、その悪魔を見上げ―――
目を丸くする。
ぞくり、どくり………
岩肌が、イリーナの身体を抱え上げた悪魔のその腕の脈が、どくり、どくりと異様に波を打っている。そして、
びゅるッ!!
「ッ!?」
「な……ッ?」
不自然な、深い緑色をした脈が、そのまま腕から突き出した。びちゃり、とその気色の悪い脈から漏れた体液がイリーナの頬と服を、周囲の岩肌を、濡らす。
そして、その脈はずるり、と孤を描き、掲げられた少女の身体に突き刺さった。びくんッ、と彼女の体が痙攣する。
「あ、ぁ……ああ………」
どくんッ、と脈が鳴るたびに、イリーナの体が苦しげに痙攣する。ぼたり、と緑色をした体液が、脈の間からまた漏れた。
「イリーナぁッ!!」
ルナの叫びに、はっ、と気がついたカノンが刃を持ち上げて跳んだ。狙いは、脈と彼女の身体を拘束する太い腕。
振りかぶったその銀の刃を、渾身の力を込めて叩きつける!
が、
ぎんッ!
「……くッ!」
腕を中心として『盾』が広がる。腕にかかる圧力に、カノンの顔が苦悶に歪んだ。
イリーナの瞳から、光が、消えた。
瞬間、
悪魔の足元に広がった魔方陣から、膨大な赤い光が放たれた。
どれくらい目を閉じていたのか。
一瞬であることを願いたい。再び、吹き飛ばされて、赤い光に目を瞑っていた。我に返って身を起こした時には、既に赤い光は消えていて、馴れない暗闇に目を擦る。
そして、つい先ほどまで悪魔の鎮座していた場所を見やって―――
「・・・ッ! な、何で……ッ?」
言葉を、失った。
「い、イリーナ……ッ」
絶望的な呻きが、ルナの口から漏れた。アルティオも、シリアも、そしてレンさえも絶句してそれを見上げていた。
そこにいたのは、悪魔だった。
ああ、そうだ。悪魔だ。先ほどと同じ悪魔だ。
けれど、その肩口や脳天からはいつかと同じ、赤い、赤い亀裂が走って、細い眼は蠢くようにぎょろりぎょろりと動いていて、だらだらと足元に汚らしい黒とも緑ともつかない体液を垂らしている。
そして、最も異様だったのだのは。
その右の肩口に、そこだけ埋め込んだように、人間の上半身がめり込んでいた。
いや、違う。上半身だけが無事で、そこから下が悪魔の体の中に飲み込まれているのだ。肩口にぽっかりと開いた、二つ目の口に。脈のような触手が蠢いて、上半身をも飲み込もうと暴れている。
その上半身は、蜂蜜色の髪を振り乱して、眠るように目を閉じて、赤い血を流して、顔に、幼くそばかすを張りつけた、
「いッ、イリーナぁッ!!」
「な、何よ、これ……ッ!」
「こ、こいつは……ッ! ど、どういうことなんだッ!? おい、ルナッ!?」
半狂乱で囚われた友人の名を叫ぶ彼女に、なけなしの冷静さを振り絞ってアルティオが怒鳴る。しかし、彼女はやはり半狂乱でぶんぶん首を振るだけだった。
こんなものは知らない。
後付された、醜悪で、あってはならない悪魔の機能。
飲み込まれている。人が、彼女が、あの悪魔に、自ら召還したはずの合成獣に―――喰われているのだ。
ぎしゃぁああぁぁぁぁあぁあぁあぁああぁッ!!
無情を語るように、獣の雄叫びが上がる。
黒の少年は、もう既に、用意していたのだ。最後の、最悪な、悪魔の罠を。
「―――くッ!」
カノンは剣鎌[カリオ・ソード]を握り締める。とにかく、止めなくては。まだ完全に取り込まれたわけじゃない。急げば助かるかもしれない。一抹の希望であっても。
シリアとアルティオに激を飛ばす。アルティオは武具を構えて悪魔に向き直り、シリアは慌てて呪を紡ぎ出す。ルナの方を向く。
「ルナッ!! 止めるわよッ!! 急げばまだ間に合うかもしれないッ!!」
「くッ、け、けど……ッ! このまま倒せても……ッ!!」
ただ彼女を巻き込むだけになりかねない。迷いと、絶望が、きりきりと音を立てて彼女を覆う。
「ルナッ!!」
「ッ!?」
暗闇を切り裂くように、ルナの手元へ光る物が飛来した。反射的に受け止めると、それは、あの悪魔を封じていた小さな鏡だった。
鏡を拾い上げ、投げた本人―――レンは剣を携えながら怒鳴った。
「全員でサポートする。あれを封じてしまえッ!!」
「け、けど……ッ!」
「使ったら、あの娘も巻き込むの?」
「い、いや、封印具は悪魔の気にしか反応しないはず……ッ! たぶん、大丈夫だとは思うけど……ッ!」
「じゃあ、迷うことないでしょうッ!? 早くしないとッ!!」
「でも、あのときとは場合が―――ッ!」
レンの整った眉がつり上がる。次の瞬間、
「馬鹿かッ、貴様はッ!!」
普段の彼らしからぬ音量で、激が飛んだ。
「ここにいる全員が諦めてないんだッ! 貴様が真っ先に諦めてどうするッ!?
貴様の覚悟は、ルナ=ディスナーは、所詮、その程度の魔道師かッ!!?」
「・・・!」
侮辱にも等しい叱咤に、ルナは歯を食い縛る。彼女を飲み込みつつある悪魔を見上げる。
痛々しい姿に、汚れていく蜂蜜色の綺麗な髪に、ぎりぎりと胸が締め付けられた。
「ルナ」
「……」
「やろう。あたしたちを自由に使ってくれていいッ! 全力で、力を貸すよッ?」
「……ッ」
幼馴染で、妹分だと思っていた少女が、大人びたまっすぐな力強い瞳を向けてくる。
手の中の手鏡が、小さな音を立てる。それに映る自分の姿は随分とちっぽけで、惨めだった。
でも。
「―――」
ぎゅ、と力を込めて、彼女はその鏡を握った。
ぎゃしゃあああぁあぁぁぁぁッ!!!
「ぅおおおおおッ!!」
悪魔の咆哮と、アルティオの走り抜ける叫びが重なる。悪魔は頭を振り上げながら、左腕で彼の右の剣を受け止める。
ぎぎんッ!!
鈍い音で岩の肌と剣が軋み合う。僅かな瑕をつけるだけで留まった。アルティオは構わず、左のもう片方の剣を悪魔の体の側面へと叩きつける!
きんッ!!
『盾』が空を歪めて、その刃を受け止める。ぎりぎりと軋み合う双方の刃に、しかし、アルティオは小さく笑みを浮かべた。
「カノン!」
「覇ぁぁぁぁぁッ!!」
特攻をかけたアルティオの軌道から大きく外れたカノンが、刃に黒い力を携えて、悪魔の背後から切りかかる。悪魔のぎょろり、とした目がその残像を捕らえた。
きゅいん、と音がして、背後にもう一つ『盾』が具現化する。
「くッ!」
カノンは寸前で刃を止めて、後ろへと下がる。アルティオは刃を軋ませたまま、額に脂汗を浮かせて、唇を噛んだ。
「我望む、切り裂くは烈風の残歌、唸れフォーンバラッドッ!」
シリアの声が飛んだ。その呪が、アルティオの周りに白く空の弾を浮き上がらせる。刃を逸らせたアルティオは、その場にしゃがみ込む。
どむッ!!!
くぐもった音と共に、空弾が爆縮する。わずかに悪魔が怯んだその隙に、アルティオは引いて、構え直し、再び斬りかかった。
カノンは引いて、悪魔の正眼に回る。そして小さく、『魔変換』の呪を紡ぎ出す。
『盾』に向かって、刃を薙ぎ払ったアルティオが、不意に脇に逸れた。
「我放つ、貫くは勇なる炎華の矢、放てフレアアロー!」
きゅどどどどッ!!
そこへ、シリアの炎の矢が降り注ぐ。だが、それも、視えない『盾』に阻まれて虚しく散った。
アルティオの舌打ちが聞こえた。
――― 一点集中でも砕けない。『盾』は一つじゃない。
カノンの表情が歪む。
悪魔が、何事か呻いた。ぐにゃり、と胸の前の空間が歪む。ぼうッ、と浮かぶ紫色の光が見えた。暗闇に浮かぶ、魔力の光。
アルティオが引いた。
じゃき、と傍らで音がした。レンが破魔の剣を構えるところだった。
「……お願いね」
「お前もな」
シリアとルナの呪が、小さく背後で聞こえる。カノンは構えた剣鎌越しに、その光を睨んだ。レンが、正面から悪魔の胸板を狙って地を蹴った。
緊張が走る。
収束した紫色の光が悪魔の咆哮に呼応して、直線に放たれた。
ごうッ!!
身を屈めたレンの脇を、魔力光が通過する。棚引いたマントの端を焼いて、魔力光は彼の背後へと伸びる。
正面からその光を受け止めたのは、カノンだった。
「ッああああああああッ!!」
ぎりぎりを読みきって、魔力光の中へ刃を躍らせる。びゅるッ! と風を切る音がして、紫の光は黒へと姿を換え、渦巻いて、彼女の銀の刃へと収束した。『魔変換』の呪によって、悪魔の生み出した力が、カノンの力へと変換される。
同時に、カノンはレンを追って走る。
その間に、レンが振り上げられる悪魔の腕を交わし、懐へと飛び込む。
『盾』の形成に、空間が歪む。
シリアの呪が完成したのは、このときだった。
「我求む、奪うは強者が讃えし異能の力、失せよカオティックイレーズッ!!」
『盾』の真正面に、真っ白な光が浮かぶ。普段は術の解呪に使われる魔法だ。レンの剣は魔を否する護符の剣。
術と剣、二つが重なったとき、相乗効果はあらゆる魔力を奪い取る。
形成された、魔力の『盾』もまた、例外ではない。
ばぎッ!!
鈍い音を立てて、レンの一振りで『盾』が霧散する。新しい『盾』を生むために、空が歪む。
だが、それが形成されるより先に、レンを追うようにして走り抜けたカノンの刃が、彼の脇をすり抜けて、悪魔の、その無傷だった腹に突き刺さった!
ぎゃぁあぁぁああぁああぁぁぁぁッ!!!
悪魔の耳を裂くような声が轟く。しかし、カノンは少し表情を歪めただけで、刃に更なる力を込める。
「覇あああああああああああッ!!」
絶叫して、力任せに悪魔を刃で押し倒す。そして、その岩の肌を、冷たい石床に縫い止めた。
「ルナッ!」
後方のシリアの声と共に、きんッ、と音がして小さな鏡が頭上に投げられる。手を広げたルナに呼応して、悪魔を中心として、巨大な黄金の魔方陣が広がった。
光が走り、複雑な紋様を描きながら、魔力を高めていく。
悪魔が苦しげに呻く。肩口に張り付いた、蜂蜜色の髪がそれに合わせて揺れた。逃げようともがく悪魔の身体を、カノンは己の腕一本で必死に押さえつける。
その耳に、ろうろうと、呪が響く。
「―――時を統べるもの、大地を統べるもの、宙を統べるもの、生命を統べるもの。
久遠を制する零弦の遙か、永現の槍、無知なる翼。
聖なる黄金を律する天使の在り処、此処に封じるは七つの大罪たる堕落の悪魔。
魔を統べる二つの月よ、我嘆かんと嘆くのならば、六大天の怒りと裁きを具現しさしめよ―――」
ルナは奥歯を噛み締める。減少していく魔力。魔力も、そして体力も限界を迎えていた。口の中に鉄錆の味。込み上げる吐き気は、尽きた魔力の証拠。
しかし、最後の力を振り絞って、その呪を紡ぐ。
「我求む、律するは黄金の天使、封ずるは闇黒の悪魔、誘え―――ッ」
「デモンズシールッ!!」
黄金の魔方陣が、洞穴を埋め尽くすまでの、眩い光を放った。
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★ プロフィール
HN:
梧香月
HP:
性別:
女性
趣味:
執筆・落書き・最近お散歩が好きです
自己紹介:
ギャグを描きたいのか、暗いものを描きたいのか、よくわからない小説書き。気の赴くままにカリカリしています。
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★ 目次
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カノン-former-
THE First:降魔への序曲
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Second:剣奉る巫女
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Third:慟哭の月
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Final
THE Four:ゼルゼイルの旅路
1 2 3-01 3-02 4 5 6-01 6-02 7 8 9 10 11-01 11-02 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 …連載中…
カノン-former-
THE First:降魔への序曲
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Second:剣奉る巫女
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Third:慟哭の月
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Final
THE Four:ゼルゼイルの旅路
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