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DeathPlayerHunterカノンの小説を移植。自分のチェック用ですが、ごゆるりとお楽しみください。
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DeathPlayerHunterカノン[降魔への序曲] EPISODE3

「あっはっはー、まっさかあんたたちだとは思わなかったわーv」
 枯れ木の丸太に腰掛けながらからからと笑う能天気魔道師は、漂う微妙な空気にもめげずにそう吐き出した。ちなみに彼女とカノンの後頭部に痛々しげなたんこぶが見えるのは、お互いの姿を認めた瞬間に不毛な言い合いを始めた二人をレンの拳骨が直撃したためである。
「まあ、大した怪我も無かったんだしそれでいいじゃない」
「いいわけがあるか。危うく死ぬところだった」
「死ぬところだったのはあんたたちじゃないと思うけどねぇ……」
 レンの至極冷静な声色に、ルナは頭のこぶを摩りながら後ろを振り返る。ひくひくと微妙な痙攣を繰り返しながら、炭と化した女剣士と少々コゲたまま動かない大柄な双刀剣士が倒れ伏していた。
「相手も確かめずに爆炎魔法撃つ方も撃つ方だけど、そのまん前に知り合いを放り投げる方もアレな気はするんだけど」
「熱風の盾に幾ら大柄で丈夫だからと顔見知りを立てる奴も相当だと思うが」
「……やめとこっか」
「そうだな」
 珍しく始まりかけた口論をやめるカノンとレン。
 まあ……レンが放り投げたたまたまそこにあった、生きた防御壁で威力が殺された魔道風をカノンがたまたま間近にいた生きた盾で防いだという人聞きの悪い事情など、わざわざ掘り合うものでもないだろう。
 ―――そもそも悪いのあたしらじゃないし。
 溜め息を吐いて、カノンは抗議の視線を何処吹く風でコゲた炭をつんつん突付いている彼女へ目を向けて、
「で、ルナ。あんた、何でこんなとこにいるわけ?」
「説明しなきゃ解んない? どーせあんた達も合成獣の大量発生の調査でも頼まれてたんでしょ?」
「あんた達も、ってことはあんたもそうなの?」
 不必要に鷹揚に頷く彼女。
「うん、まあ。依頼人は別だろうケドね」
「そーね。同じところに来させられてるし。けど、あっさり出て来たってことはやっぱりあそこには何も無かったの?」
「教えると思う?」
「いや、言ってみてからそれはないか、と気が付いた」
「ご名答」
 あっさりと言い放ち、ひらひらと手を振る。と、思いきや、
「と、言いたいところだけど。まあ、教えてあげてもいいわ。お礼はチップ程度でいいわよ」
「ちゃっかりしてるわね」
 レンがマントの裏へ手を忍ばせる。取り出した大き目の硬貨をピンっ、とルナの方へ放ると受け取った彼女は手の中を見て満足そうにそれをポケットへ落す。
「用意がいいじゃない」
「世の中、欲の深い連中は多いからな」
「それ、遠回しにあたしに欲深い奴、って言ってる?」
「違うのか?」
 相変わらず、人の神経を逆なですることに関しては一流である。馴れがそうさせるのが、怒り狂うかと思った彼女はカノンの予想に反して小さく肩を竦めただけだった。
 そういえば、レンとルナはこの五人の中でも最も付き合いが古かった。
 別にチップなど払わなくてもこの後、自分たちで探索すればいい話なのだが。ただ、この年中発情期に当てられている二人組みを連れての屋敷探索と、ささやかなチップを払うのとなら、迷わずチップを犠牲にする。彼も考えは同じだったらしい。
 滅多にないルナのやたら寛大なサービスだ。依頼料がやたら多いのか、何かの思惑でもあるのか。まあ、とにかく受け取って置こう。
「結論から言うとハズレだったわよ。単なる廃屋、まあ、ちょちょいっと昔の罠が未だに作動することもあってそれには感心したけどね。
 肝心の研究施設ときたらまあ、埃の山というか山脈というか。確かに合成獣を作ってた形跡はあったけど、ここ最近何かが作動したり壊れたり、って風ではなかったわね。っていうか施設そのものがおじゃんよ、もう随分昔に死んでたわね、アレは」
「ふーん。ほらじゃないでしょうね?」
「金を貰っての嘘は言わないわよ。別に損するわけじゃないし」
「じゃあ、ルナ。あんたが請け負ったのはやっぱりここの調査であって、事件の解決ではないのね?」
「まーね。じゃなきゃ情報漏洩なんてやんないわよ」
 なるほど、チップ程度で済んだ理由が何となくわかった。
 つまり、彼女の請け負った依頼はただの屋敷調査であり、この合成獣事件の解決ではないということ。事件の解決が依頼内容ならば、とどのつまり、自分で事件を解決しなければ依頼料は入って来ない。となればカノン達に先に解決されてしまわぬよう、情報を隠す必要が出てくる。
 しかし、ただの屋敷調査ならばそこまでの責任感はいらない。『あの屋敷、やっぱ何も関係なかったです』の一言で十分なのだから。
 ……もちろん、ルナが事件解決を狙ってやっぱり嘘の情報を流している可能性が消えたわけではないのだが……。
 はっきり言って、それを確認するほどの体力・気力が充実していない。
 まあ、先程の詳しい状況説明を信じてさっさと終わらせてしまうに限る。
「まあ、ところで」
 すっく、とルナが立ち上がる。
「……やれやれ、猛獣は二人で十分なんだが」
 かちり、とレンが触れた剣の柄が小さく唸る。
「ちょっと、その二人って誰のことよ?」
「ああ、悪かった。そこで転がってるのを含めて四人だな」
「増やすな! ってかせめて三人でしょ!?」
 軽口を叩きながらもカノンもまた、背に負っていた剣鎌をずらり、と引き抜いた。
「ほらあんたたちも! いつまでも寝てないで加勢しなさい!!」
「いでッ!!」
「ひゃんッ!?」
 丸太裏に転がして置いた約二名を蹴り起こす。細かい分類はともかく、一応は生物なのだから自分の判断で動いてもらわなければ。
「痛いわねッ! 何するのよ!?」
「何するのよ、じゃないッ! あんたらも一応、剣の修行した有段者でしょ!? 自分の周りの異変にくらい気づきなさいよッ!!」
 カノンに怒鳴り散らされて、すっ、とシリアの表情が真顔に戻る。焦げていたアルティオも起き上がって、目を細め、周囲を観察し始める。
 静かだった。
 いや、静か過ぎたというべきか。鳥の声一つしないのは異常としか言い用がない。
 もう一つ。
 ここに五人のみが存在すると言うのに―――。
「何よ、あの音……」
 シリアから硬い声が漏れる。
 ぱきん、ぱきん、と下生えに転がる小枝の割れる音が響く。同時に何かを引き摺るような、ずる、ずる、という水気を伴う不快な怪音。
 例えるならスライムが森の中を這って歩いているような。しかし、その音はスライムなんかよりも余程重量のある生き物の歩く音だ。
 嫌な予感が胸を掠める。そもそもこの以来の発端は何だったか。思い出せば簡単なこと。
『唐突に発生した合成獣が観光客を襲う。合成獣の形は千差万別。海から森から陸地から』
 誰かが溜め息を吐いた。刹那。
「っ、カノンッ!!」
「―――っ!」
 レンの声が飛んだ。カノンは瞬時に反応し、横っ飛びにその場を離れる。

 ずひゅるッ!!!

「なっ……!!」
 アルティオのくぐもった呻き。
 辺りに群生する背の低い茂みを形成する木々の合間から、太い触手が一本伸びて今しがたカノンが構えていた空間を貫いていた。
 いや、―――
「触手、っていうか蔓ッ!?」
「我求める、途往くは銀の閃光、従えシルフィードッ!!」
 カノンの吃驚の声とルナの呪文とが重なった。生まれた光は幾つもの筋へと分散し、そして、

 きっぎゃぁぁぁぁあああぁああぁぁッ!!!

 耳を劈く雄叫びが鼓膜を揺るがした。彼女の呪文は、周囲の小枝や茂みを薙ぎ払い、視界を確保するためのものだったが、どうやら中の一条が素通りして奴を掠めてしまったらしい。
 細木が薙ぎ倒されて露になった茂みの向こう。そこにいたものに、
『―――――ひあッ!!』
 生理的嫌悪感に、カノンもルナも、そしてシリアも思わず悲鳴にならない悲鳴を上げた。
「な、何だ、こいつッ!!」
 掠れた声でアルティオが双剣を抜く。
 ―――ご、合成獣とは聞いてたけどさッ!!
 頭は不自然に巨大な牛(おそらくはバッファローかミノタウロス辺りだろうが)、上半身は野犬のようにしなやかだが、背中には不自然な角度に曲がった煤けた翼が生えており、尻尾はどうしたことか兎のような短い毛玉がちょろっと付いているだけ。
 ここまでは、まあ見ていて不快といえば不快だが、まだいい。
 だがしかし、その下というと足というものがなく、付け根の部分からは今しがたカノンを貫こうとした太い植物の蔓が四本うねうねと蠢き、さらにその下は足代わりにスライム状のどろどろしたものが下生えを溶かしながら広がっている。
 ―――出来れば一生、見なくて良かったこんなもの。
 表情を引き攣らせながら、思わず固まった。が、しかし、闘争心は旺盛なのか先程のルナの一撃に怒り狂っているのかびしゅ、と奇怪な音を立てて蔓を伸ばす。
「うわわッ!」
「いやぁぁぁッ!!」
 溶解液に塗れた蔓が(溶けないのかと思うが独自進化なのか溶けていない)変則的にうねうねと動き回る。その蔓が太く長いものだから、でたらめに振り回しているように見えても避けなければ当たるわけで。
 加えて足場と空間が狭い。相手も不利だろうがこちらも当然不利だ。
 当たり前だがスライムの溶解液は金属―――つまりは刀身を溶かす。懐に飛び込めればいいのだが、この状況でははっきり言って無理だ。
 ―――くっ、蔓が邪魔で近寄れない! こりゃルナとシリア頼みかッ!?
 縋る思いで二人の方を盗み見るが、二人も迫り来る蔓のせいで呪文が中断されるらしい。唱えかけては撤退を余儀なくされている。
 ―――と、なると、やるべきなのは援護ッ!
 だんっ、とその場を蹴って二人の方角へと飛ぶ。伸びた蔓が頭の上を掠めて風を感じた。髪の毛の一本くらいは溶かされたかもしれない。
 腰に下げたクレイソードを抜く、いくら何でもあんなのと戦って剣鎌[カリオソード]の刃を痛めたくはない。
 一度集約し、再び伸びてくる蔓。
「っせいッ!!」
 足元に転がっていた小枝を蹴り飛ばす。止められるなどとは思っていない。ただの牽制だ。
 案の定、痛みは感じるのが蔓の動きが一瞬だけ止まった。カノンはその隙に、クレイソードを蔓へと突き立てる。

 ずしゅッ!!

 きぃぃぃあああぁぁっぁぁあああッ!!

 聞くに堪えない悲鳴がもう一度上がる。構わず力任せに地面に縫い止める。
 ―――これで一本。
 背後に殺気。
「っとぉッ!?」
 転がるようにして背後から迫る別の蔓を避ける。
「我求む、生み出すは青き冷厳、縛れフリーズ・フリージアッ!!」

 かきこきぃぃぃぃんッ!!!

 転がった背後からシリアの放った青い光弾が飛来する。
 とりあえず背後で『ちっ!』だのと舌を打ちやがった奴は後でしばいて置こう、と決意するカノン。光の弾はカノンを襲った自由な蔓の根元へ着弾し、歪んだ音を立てて氷の結晶を生む。
「アルティオ!!」
「よっせぃ!!」
 掛け声と共にアルティオが自分を狙う蔓を連れたまま、右往左往に逃げ回る。一瞬、一本目の蔓と二本目の蔓とが重なり合って、
「避けろッ!!」
 レンの激が飛んだ。
 同時に下がるアルティオとカノンの脇を、

 どぉぉぉおおおぉおおぉぉんッ!!!

 レンの切り倒した枯れ木が蔓を押し潰す。苦痛の雄叫びが再度上がり、しゅうしゅうと音を立てて枯れ木が溶け始める。
 だが、すべて溶かしてから反撃したところで遅いのだ。
 剣も、氷の弾も、枯れ木も全ては所詮、援護。
 馴れたもので、その詠唱が終わる頃には全員が安全地帯へと退避済みだった。
「我放つ、穿つは破壊の境界、砕けメガブラスターッ!!」

 どんッ!!!

 赤い閃光が森林を凪いだ。導火線の切っ先は凍りついた蔓の根元を打ち砕き、そのまま合成獣の身体組織そのものを一瞬にして破壊し、打ち砕く。
 光の冷めた後には、乾いた生き物の残骸が残るだけ。
 だがそれが醸し出す醜悪な匂いに鼻を抑えながらカノンは伏せていた頭を上げ、立ち上がってその残骸の方へ近寄る。
「いやぁん、気持ち悪かったぁッ!」
「どさくさに紛れて抱きつこうとするんじゃない」
「レンッ、お前さっき俺狙って木、倒したろッ! マジ危なかったぞッ!!」
 ……まあ、背後できゃんきゃん騒いでる野郎らは無視して置くとして。
「合成獣、ねぇ……」
 カノンは哀れなその末路の残骸を眺めながら、腕を組み、溜め息と共に首を傾げたのだった。


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★ プロフィール
HN:
梧香月
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性別:
女性
趣味:
執筆・落書き・最近お散歩が好きです
自己紹介:
ギャグを描きたいのか、暗いものを描きたいのか、よくわからない小説書き。気の赴くままにカリカリしています。
★ 目次
DeathPlayerHunter
         カノン-former-

THE First:降魔への序曲
10 11Final

THE Second:剣奉る巫女
10 11Final

THE Third:慟哭の月
10 11 12 13 14 Final


THE Four:ゼルゼイルの旅路
  3-01 3-02   6-01 6-02    10 11-01 11-02 12 13 14 15 16 17 18 19  20  21 …連載中…
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