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DeathPlayerHunterカノンの小説を移植。自分のチェック用ですが、ごゆるりとお楽しみください。
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DeathPlayerHunterカノン[ゼルゼイルの旅路] EPISODE3前半(長いので忍者に蹴られました)
鉄壁の悪魔のシナリオ。そこはまだ悪魔の手のひらの上。
 
 
 

 申し訳程度に整備された、砂利と土、短い草が混じり合う細い街道。林立した木々が、視界を悪くする。日差しはなく、アルケミア海に浮かぶ大陸の中では、最も南に位置する国だというのに、鳥肌の立つような寒気が辺りを覆っていた。先ほどからヒールで転びかけたシリアが、何度か誰かに支えられている。
 九人分の足音が唱和する。
 その足場の悪い、細い道を一列になって歩きながら、ティルス=コンチェルトは静謐に語りだした。
「ラーシャ様が大陸へお発ちになられた後すぐ、シンシア内では貴族院の集会が開かれました」
「貴族院?」
 声を上げ、首を傾げたのはカノンだった。
 デルタが忌々しげな表情を隠さずに、ラーシャを見上げる。彼ほどではないが、やはり彼女も、渋い表情を顔に張り付けている。
 林の中の下生えを、さくさくと踏みしめながら先導するティルスの表情は伺えないが、淡的なその口調の中に、小さな棘が感じられる。
「昔から、シンシアを……いえ、ゼルゼイルを率いてきた重鎮たちで造られた組織です。政治的にも正式な組織と認められており、莫大な権力を持っています。シンシアはシェイリーン様を中心とする議会が規則を作り、守っていますが、その議会への影響力も計り知れません」
「要するに、くたばり損ないのご老人たちが、年寄りの冷や水で幅を利かせてて。下手に権力が増徴しちゃったもんだから、その総統との間で意見が合わなくて、下らない内部抗争が起こってる、っていう構図なわけね」
「無礼な言い方は謹んでください!」
 ルナの見も蓋もない言い分に、デルタが声を飛ばす。不快そうな顔で振り返ったティルスとレスターを諫めるように、ラーシャが小さく溜め息を吐いて首を振った。
「っていうか、ルナ、ばっさり切りすぎでしょ……」
「そんなの、一昔前の政団と一緒じゃない。内部圧力が強まって、結局何も出来ないでいる。どうせその貴族院てのが前、言ってた反対派の奴らの中心なんでしょ?
 暗黒時代の政治家だってそうだったわ。なまじ、魔道師の力が強すぎて、防護策を練る前に暴走した。
 まあ、どんな規模かは知らないけど、対処がないならこのまま勢力三つ巴、みたいなことになりかねないんじゃないの?」
「……確かに、貴族院が右翼派で、シェイリーン様の思想と反発しているのは事実だ。
 その集会というのも、私の大陸行きを巡った論争だったのだな?」
「はい」
 ルナの言葉を肯定するように、ラーシャがティルスへ問いかける。彼はあっさりと肯定を返した。
「貴族院の奴らはシェイリーン様の、和解の思想を読んでいて。懐刀の姐さんが不在なのを言いことに、徹底的に軍部とシェイリーン様を叩きに出たんだよ。おまけに議会の有力な何人かを、汚い手で味方につけやがった」
「地固めが甘かったのでしょう。軍部はラーシャ様やシェイリーン様の指示内にありますが、議会では貴族院がのさばっています……」
「……」
 ラーシャは唇を噛み締めた。シェイリーンは父である前総統クラヴェール=イオ=ラタトスの良心を受け継いでいる。その父を悼み、総統となり、ラーシャやデルタたち、軍部を味方につけ、無用な戦いを減らしてきた。
 だが、一方で貴族院が中心となっていた議会での、タカ派の増長を止められず、それどころかエイロネイア皇太子の台頭と過度な挑発によって、貴族院はますます頭に血を上らせている。
 その中で、総統といえどもシェイリーンが一人、和平を叫び続けるというのは、どう見たところで無理が生じる。
 シェイリーンは和平への風潮を受けた民衆が選んだ総統であったが、それは戦争が長引いて貧しくなりつつある民衆の支持の賜物であって、裕福な血族に守られた貴族院のご老公たちの支持ではないのだ。
「悪いことに、民衆内のタカ派もこのところ目に余るようになって来ています。以前は小さな種でしかなかったものですが……このところ、ちらほらですが暴動が起きています」
「な……ッ!?」
「筋を辿ってみましたが―――どうやら裏で、あのエイロネイア皇太子が糸を引きながら民衆を煽っているようです」
 ぴくり、とカノンの形の良い眉が動く。レンもルナも、アルティオも。項垂れていたシリアも、一様に顔を上げる。アルティオはあからさまに不快を露にした表情で、唇を噛んでいた。
「そんなことが……ッ!?」
「可能です。タカ派の集会自体は些細なものですが、融資を得られるスポンサーが背後につけば、暴動やデモの一つや二つ、起こしても不思議ではないでしょう。
 暴動を起こした連中の背後を洗ってみましたが、スポンサーとなっている貴族や商人は架空のもので、実在しない人物でした。しかし、金銭に関してはどうもエイロネイア軍のものが動いている気配が……」
「つまり、実在しない人物を語ることでそれ以上の明確な追求が防がれている。
 でも、シンシア内に民衆のタカ派に投資している人間は見受けられない。どうせ投資するんだったら貴族院に投資して、商売上でいろいろ目をかけててもらった方が良いものね。
 だったら、内部分裂を狙ったエイロネイアの策、ってことになる」
「はい。暴徒はタカ派を語ったエイロネイアの兵も一緒でしょう。けれど、法律上、彼らをエイロネイア兵の捕虜として裁くことは出来ません。
 あのエイロネイア皇太子―――実に頭の切れる人間です」
 ティルスは冷静な表情を崩さぬように努めるが、それでも声に少々の怒りが滲んでいる。ましてや、隣を歩くレスターは感情を抑えようとすらせずに、きしり、と歯を噛み締める。
「頭が切れる上に非人道だ。あの野郎、戦場でも政治でも汚ねぇことしやがる……ッ!」
「……貴族院も表立って戦争を支持するような発言は出来ません。なので、シェイリーン様への批判、糾弾も、一応の終結は見ました。
 けれど、その後です。
 シェイリーン様の周囲を怪しげな連中が付回すようになったのは」
「それは……」
 はっ、として顔を上げるラーシャ。デルタも同じだ。
 その青ざめた表情に、カノンは大陸で二人から聞かされた話を思い出す。現総統シェイリーン=ラタトスの父親である前総統の末路が、どんなものだったのか。
 同じ結論に至ったらしい、アルティオの舌打ちが聞こえた。彼だけではない。シリアは眉間に皺を寄せて、嫌悪の表情を浮かべる。レンもルナも、差たる反応は見せないがやはりどこか苦い顔で押し黙っている。
 ティルスは全員の悪い想像を肯定付けるように溜め息を吐いた。
「……クラヴェール様のときと同じ、暗殺者の集団だと、私は考えています」
「なら、やっぱりさ、そんな危険な王都に総統を置いとくわけにいかねぇだろ?」
 さくり、と彼らの踏み出した足音が、一際高く聞こえた。
「和平の旗頭であるシェイリーン様を失うわけには行きません。シェイリーン様は前線指揮の名目で、こちらの付近にある砦に留まっておいでなのです」
「……ノール港が閉鎖されれば、私の船はこちらの港を選ぶ予定だった。そのためだな?」
「はい。シェイリーン様はラーシャ様のお帰りと皆様のご到着を頼りに、長い間、お待ちになっておりました」
 瞑目して答えるティルスに、ラーシャは長い息を吐く。そして、ゆっくりと首を振って、天を仰ぐ。
「何ということだ……。やはり、私がシンシアを離れるべきではなかったか……ッ!」
「……あの野郎……。どこでもかしこでも、汚ねぇ手を使っていやがるな……ッ!」
 堪えきれない怒りを押さえつけるように、押し殺した声でアルティオが漏らす。その言葉に、先頭を歩いていたティルスが不意に反応して振り返る。
「皆様はエイロネイア皇太子をご存知で? デルタ、既に説明したのですか?」
「いえ、それが実は……」
「エイロネイアの手の者が、彼らに接触しているらしい、とのことだったろう?
 驚くことに、その手の者が、エイロネイア皇太子ロレンツィア=エイロネイア本人だった……今でも、信じ難いが―――
 あの者はエイロネイアの帝国紋章を所持していた。おそらくは本物だろう」
「何ですって……?」
 ティルスは眼鏡を抑えて軽く驚愕する。レスターの眉がつり上がり、二人は表情を歪ませて顔を見合わせた。レスターは小さく肩を竦める。
 ―――……?
 その反応に、カノンは訝しげに眉をひそめた。その視線に気が付いたティルスは、何かを逡巡していたが、やがて軽く咳払いをして踵を返す。
「……どうやら、我々は今も彼の思う壺に入っているようですね……」
「何?」
「詳しくは、主の前ですることに致しましょう。ノール港のことも、重ねてお答えします。
 ―――着きました」
 言って、彼は歩みを止める。同時にカノンたちもその場で足を止めた。止まり損ねたらしいシリアが、前を歩いていたアルティオに鼻先をぶつけたらしく、後ろでひしゃげた声がしたが。
 呆れた溜め息を吐いてからカノンは視線を上げる。
 ばさり、とレスターが視界を狭める木々の低い枝を避けてくれた。そのおかげで、女性の割に背の高いラーシャの後ろからでも、それの外観を眺めることが出来た。
 細い街道が、視界の開けた草原の先で太い街道と交わっている。
 そして、そのさらに先の太い街道が途切れていて、
「……」
 知らず知らずのうちに固唾を飲み込んでいた。
 広がる灰色の空が、途中で消えている。いや、遮られている。重々しい雲を背景に、その居城は聳え立っていた。
 黒いシルエットを描く、幾つもの塔が生えた石造りの建造物。
 砦、と呼ばれるそれと同じようなものを、カノンは何度か目にしたことがある。貴族の住むような、美しさを追求した城などではなく、防壁と有事に備えて陣配置のされた堅固な城。ただ、帝国で目にするそれは、古び、寂れた旧世代の異物にすぎない。
 その現物が、目の前で機能して、こうして聳えている。
 ぶるり、と肩が震えたのは武者震いが、それとも得体の知れない寒気なのか。
「―――シンシア第三関所、バラック・ソルディーアと呼ばれる砦です。あそこに我らの主、シェイリーン=ラタトス様がいらっしゃいます」
 振り返ったティルスが厳かに言う。
 ラーシャが感慨深げにその城を見上げて、拳を握り締めた。そして、戦場で指揮を執る、そのときのようにデルタやレスターを数歩だけ下がらせて、
「……ようこそ、ゼルゼイル北方シンシア国へ。我らは皆様を歓迎いたします。どうぞ、我らが主にご面会を」
「……」
 格式ばった言葉を並べ、丁寧に頭を下げる。デルタとティルス、そしてやや不服そうにしながらレスターもその礼に倣う。
 カノンは無言でそれを受け止めると、今一度、黒い影を作る砦へと目をやった。
 振り返って、全員と目を合わせる。レン、ルナ、シリア、アルティオ。些か表情は硬かったが、四人ともが、静かに頷いた。
 その意志を伝えるように、カノンは面を上げたラーシャに居住まいを正し、ゆっくりと、深く頷いたのだった。



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★ プロフィール
HN:
梧香月
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性別:
女性
趣味:
執筆・落書き・最近お散歩が好きです
自己紹介:
ギャグを描きたいのか、暗いものを描きたいのか、よくわからない小説書き。気の赴くままにカリカリしています。
★ 目次
DeathPlayerHunter
         カノン-former-

THE First:降魔への序曲
10 11Final

THE Second:剣奉る巫女
10 11Final

THE Third:慟哭の月
10 11 12 13 14 Final


THE Four:ゼルゼイルの旅路
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