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DeathPlayerHunterカノン[降魔への序曲] EPISODE1。
ここからすべてが始まります。でも完全ギャグ章です(オイ)。
ここからすべてが始まります。でも完全ギャグ章です(オイ)。
「何であいつらがこんなところにいんのよ!」
「俺に聞いても知るか!!」
彼らは今、追われていた。人出の少なくないストリートを全速力で駆けていく。一流の剣士としての脚力を持つ彼女たちに追いすがるのは、暗殺者でも盗賊一味でもなく……
「ちょっと待ってレンー!! 何で逃げるのーーーッ!!」
「こらぁぁぁッ、カノン!! お前ら、疚しい気持ちが無いんだったら止まれぇぇぇぇぇッ!!」
……世界最大の害悪だった。
Death Player Hunterカノン
―Prologue―
リゾートアイランド―――クオノリア・シーサイド。
ロイセイン大陸の中でも屈指のリゾート地であり、避暑地としても名高い観光都市の一つである。大陸の端に位置するクオノリアから、定期的に運航される遊覧船で約十分の場所にシーサイドと称されたその開拓島は浮かんでいた。
基本的には高級ホテルと領主や商人の別荘が建ち並ぶ観光地。相場がやや高いのが難点だが、仕事続きであった傭兵あがりの旅人が癒しを求めてやってくるのもこの島なのである。
「はぁぁぁ~~~、やっぱり海はいいわね~~~っ! スカッとして何も考えなくていい気分っ」
この、日頃縁の無い場所にカノンとレンがやって来たのも、度重なる仕事でいささか気分が滅入っていたからだった。
感情の起伏が激しいカノンは勿論、普段、終始涼しい顔を崩さないレンもまた。 仕事慣れしているとはいえ、休暇が欲しいときもある。お互いの顔色を悟り、骨休めをしよう、という提案でカノンから出たのがクオノリア行きの話だった。
世渡りは上手いが他人嫌いな面のあるレンは観光客のごった返す都市行きに、些か渋い表情をしたが、
「まあ、人生で一度くらいいけ好かない場所に行ってみるのも社会勉強じゃない」
と、やけに嬉しそうに話すカノンの押しの強い一言に、とうとう首を縦に振ったのだった。
「……いけ好かない場所を選ぶ時点で休暇ではないような気もするが」
「あはは、別に観光都市が好きってわけでも、人込みが好きなわけでもないけどさ。
一度は来てみたいところってあるじゃない」
遊覧船から降りるなり、やたら軽い足取りで前を歩くカノンは、そのままスキップでもしそうな勢いである。
だがしかし。
このときは数十秒後にそのスキップが全速力に変わろうとは、予測すら出来なかったわけで。
観光の前に渇いた喉でも潤そうと、何気なく決めた一軒のドリンクショップがまさか、この休暇を台無しにする発端となろうとは思ってすらいなかったわけで。
気分もはしゃいでいたカノンは、その運命の店へ通じる短い階段を上り、ドアを引いた。
その瞬間、彼女の背中が凍りつく。
「あ、あんた! カノンっ!?」
「何っ!? マジかっ!?」
「―――っ!」
ドアベルが鳴るなり、カウンター席にかけていた男女が振り返った。彼らは即座に椅子を倒して立ち上がる。
片や、青の混ざる艶やかな黒髪をポニーテールに結い上げて、素晴らしく整ったプロポーションを見せ付けるように露出した派手な女。
片や、長身にややがっしりした体格を、軽装戦士の身なりで包み、ブラウンの髪を短く刈った男。
互いに知った顔だった。
「あ、あんたっ、シリアぁっ!? アルティオまで……!! 逃げるわよ、レンっ!!
って、もういなッ!? 早ッ!」
「あーん、何で逃げるのレーンっ!」
「お前ら待てっ! 逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ちょ、レン、一人で逃げないでよッ!!」
……そんな経緯で壮絶な鬼ごっこが展開されたわけである。
それでどうなったかというと――
「レーンっ! こんなところで会うなんて、やっぱり私と運命の絆で……!」
「腐れ。廃れろ、切れてしまえ、そんなもの」
「ふっ……また俺の前に現れてくれるとは、運命の女神は余程俺を好いてくれているらしい。
カノン、ようやく俺の求婚に……」
「答えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 失せろ、消えてしまえ、そんなヤクザな神っ!!」
常識というものの通じない、究極的な馬鹿の前には、一流戦士の体力も何の意味も為さないらしい。理不尽な怒りにカノンの肩が震える。
――まったく、何年経っても何の進歩もないわね、こいつらぁぁぁ~~~っ!
本気で理不尽だ。
休暇を取りに来たと言うのに、この段々と蓄積されていく重い重い疲労感は何なのだろう。
やや諦め気味に溜め息を吐いて、カノンはどんよりとした目で彼らを見た。
「ったく、何であんたたちがこんなところにいるのよ……せっかくのバカンスが台無しじゃない」
「お黙りなさいっ! この私の目の届かないところで、私のレンと二人っきりでバカンスを楽しもう、なんて大罪、許すわけがないでしょう!」
「大罪て。おい」
シリア=アレンタイル。
思い込みの激しすぎるレンの自称『運命の恋人』であり、基本的に彼女の頭の中にはそれしかないらしい。その隣では相棒というか、同類類哀れむというか。ともかく馬鹿がもう一匹吠えている。
「やい、レンっ! てめー、他人の女を誘惑なんて、なんつーセコイ真似しやがんだっ!?」
「どこにも誘惑した覚えはない。付いて来たのはそっちが最初だろう」
「いーやっ! どうせ最初に甘言をひけらかし、カノンをそそのかしたに違いないっ!
俺にはわかるっ! 真実と、お前の悪行がっ!」
「……」
早速噛み付かれている彼もまた、諦めてただ息を吐いた。が、額にはしっかり血管が浮いている。
アルティオ=バーガックス。可愛い女の子が三度の飯より好きな色モノ軟派男であり、何の因果かカノンはこの男に気に入られてしまっているらしい。彼女にはまったくその気はないのだが。
その馬鹿二人がダブルで襲ってきた日には、人生嫌になるのに十分である。
カノンはずきずきと痛み出す頭を抱えながら、改めて息を吐いた。
少しは体温を冷やそうと、ジュースを一口含んだ瞬間、
ぞわわっ……!
「――!」
「どうした?」
「い、いや……今、何かさらに嫌な予感が……。い、いや、まさかこれ以上の不幸は」
「とにかくカノンっ! 私に黙ってレンと二人旅なんて絶対に許さないわっ! 狩人であった頃はまあ、多少の譲歩はしていたけれど、そういつまでもあなたの天下は続かなくってよ!」
「……誰も天下取ってないっつーの……」
店の中、ということもものともせず、立ち上がって思い切り宣言する彼女。風貌、格好でただでさえ目立っているのに、その大声はさらに他の客の注目を浴び、『姉ちゃんいいぞー!』、『脱げー!』などの下劣な野次が上がっている。
それをまったく気にしないもう一人が、根拠もなく得意げな表情で言う。
「まあ早い話が、これ以上、お前らを二人っきりで好き勝手させておくわけにいかねーから、俺たちもくっついてってやろうってこった。よろしくな」
「心の底からヤダ」
「勝手によろしくするな」
「ふっ、まあ照れるな」
「一回死ね、お前」
大してなびきもしないくせに髪を掻き揚げるアルティオに、きっぱりと言い捨てる。
消化に悪い。今、飲んでいる杏のジュースさえ、胃がフル稼動で働いてやっと消化できるほどだ。五臓六腑、すべてが機能低下しているのかもしれない。
「で、まずは現状把握なわけだけれど……」
「は? 現状把握?」
「とぼけるんじゃないわ、カノン。
あなたたち、この四年間、何かただならぬやましい間違いを犯したなんてことはないわよね?」
ぶっ!!
あまりといえばあまりにあからさまな問いかけに、カノンがジュースを吹き出した。
「げほっ! けほっ、かはっ!!」
「きったないわねー……」
「げほっ……誰のせいだと、けほっ、思ってんのよ! ったく、何を言い出すかと思えば……
ンな馬鹿なことあるわけ……」
怒鳴りかけたカノンの言葉が、唐突に切れた。
ふと。
言いかけた瞬間に、ある光景が頭を掠める。
さほど昔のことではない。第二政団を打ち倒した、その直後――
「……わけないでしょっ!!」
「ちょっと、今の間は何なのよ!? っていうか鼻の頭赤いわよ!!」
「レンっ! てめー、一体何しやがった!?」
「何かした覚えはない」
「嘘つけっ! 正直に話せば多少の慈悲はあるぞっ!」
「貴様はどこの裁判官だ」
「あーもううるさいうるさいっ……!」
「……あのー、失礼ですが…」
「何っ!?」
カノンは怒り任せに勢いで振り向いた。が、それをすぐに後悔する。
振り返った視線の先にいた男は、びくりっ、と肩を震わせて、そのまま小さくふるふる震え始めたのだ。心なしか少々、涙目である。
――……あたし、そんなに怖い顔してたか?
自問しながら、少々落ち込んだ。
「ほらぁ、カノン、貴方のこっわい顔でこの人脅えてるじゃない」
「う、ごめん。
いや、別に貴方に怒ってたわけじゃなくて、えーと、とりあえず大丈夫?」
なるたけ優しげに呼びかけると、男は未だびくびくしながらも、構えた腕の間からこちらを覗き、
「あ、あの、ご、ごめんなさい、殴ったり蹴ったり生皮剥いだり内蔵抉り出したり塩擦り込んだりしませんか……?」
「……しないわよ、そんな趣味の悪い……。何もしないからとりあえず脅えないで。こっちが何か切なくなってくるから」
表情を引きつらせながら、なるたけ柔らかい声を出す。
被害妄想も甚だしい。まるでこっちが人食いみたいじゃないか。
―――まあ……世の中には何でも悪く捉える超悲観主義者ってのもいるもんだけど……
カノンは何十回目かになる溜め息を吐きながら、目の前の男を観察した。
まだぎりぎり青年と言っていい歳だろう。金の柔らかな髪を肩まで伸ばし、涙目の瞳は翡翠。驚くほど綺麗な男、ただ浮かべる表情がやたらおどおどした、気弱なものであるせいでその魅力が半減してしまっている気はする。白のスーツ、素材はシルク。いかにもどこかの御曹司、といった風体の青年だ。
さすがに表情を引きつらせながら、アルティオが腰を突いた青年の腕を引き起こす。
「あ、ありがとうございます……。ごめんなさい、びっくりしちゃって」
「びっくりしたのはこっちの方よ……」
「あ、あう、ご、ごめんなさい」
「いーから。座り込まなくていーから。で、あんた、一体何処の誰で何の用なの?」
「あ、はい、すいません」
金の髪を揺らして、ぺこぺこしながら青年は立ち上がり、勧めた席へと落ち着く。通りかかったウェイトレスに、ミックスジュースを注文してから向き直った。
「自己紹介が遅れました。僕はクレイヴと申します。フルネームはクレイヴ=ロン=ウィンダリアと……」
「何ですってっ!!」
金切り声と共にばだんっ、とテーブルが音を立てた。
懸念して御曹司に目を向けると、やはり彼はアルティオの大柄な背中にしがみついている。
―――……こいつにだけはさっきの台詞言われたくなかったな。
「シリア、何だか知らないけど、ちょっと落ち着け落ち着け。依頼人、脅えてるから」
「これのどこが落ち着いていられるって言うのっ!?
カノン、貴方知らないのっ? ウィンダリアと言えば、クオノリア有数のリゾートホテルよッ!
最新の設備とサービスを備えた最高級ホテルで、プールは勿論、VIPだけが使えるプライベートビーチも備えたまさにリゾートホテルの真骨頂っ!
最上階のスウィートルームは一年後まで予約一杯の今、超人気ホテルの名前よ!」
「詳しいわね、異様に」
「当然よ。レンとの明るい未来のために、新婚旅行の人気スポットは押さえておくべきでしょ?」
「……相当前から思ってたことだけどさ、あんた、実はほんっきで馬鹿でしょ」
「どういう意味よ?」
「いや、まあ、何となく。
でも、この人がそのホテルと関係あるとは限ら……なくもないか。めちゃめちゃいい格好してるし。
えっと、クレイヴさん?」
「は、はい……?」
カノンは完全にアルティオの背に隠れ、かたかたと小刻みに震える青年に呼びかける。だんだん頭と胃が同時に痛くなってきた。
「あー……とりあえず、とって食ったりしませんから、ちょっと出てきてくれます?」
「そ、そんなこと言って、出て行ったら首とかもいだりしません……?」
「しないしない。しませんから、ふつーに、平和的に会話とか交渉したいだけなんで、お願いします」
カノンの説得に、恐る恐る顔を出すクレイヴ。その手はきっちりアルティオの服の袖を掴んだままだった。
「えっとですね、貴方、この人が今言ったウィンダリアホテルの関係者か何かですよね?」
「は、はい……ぼ、僕、実はそこのオーナーで……」
「なんですっ」
ぱかんっ!
間抜けな音と共に、シリアが何か言いかけたままゆっくりと仰向けに倒れた。
それを見届けてから、レンは近くにいたウェイトレスから借りた(正しくは引っ手繰った)トレイを下ろして実につまらなそうに息を吐く。
「え、あ、あのっ……」
「ああ、すまなかった。返す。角を使っただけだが、一応、拭いて使ってくれ。念入りにな」
「レン、ナイスフォロー! これで邪魔者は消えたわね」
「ひでぇ……」
涼しい顔で事後処理を終えるレンに、カノンは極めて爽やかな笑顔でVサインを出した。
「さてと。クレイヴさん、マジな話に戻すけど。
あたしたちを見て、声をかけてきたってことは何か頼みたいことがあるってことよね?」
「は、はい、そうです……」
ミックスジュースで宥められて、ようやく平静を取り戻したクレイヴは大げさな深呼吸を一つした。
また脅えられても困るので、シリアは昏倒させたまま、店の椅子に縛り付けてある。店にとっては甚だ迷惑だろうが、そこはそれ、有名ホテルのオーナーの威光で大目に見てもらおう。
クレイヴは肩を下ろして、上目遣いにカノンを見上げると、
「えっと、皆さんは旅の方ですよね? クオノリア・シーサイドにも森があるのをご存知ですか?」
「島の奥まったところにあるやつよね? 船から見たけど」
「はい。セリエーヌ森林といいます。クオノリアで唯一、昼の光の届かない場所だと、地元では言われています。
大きな島ですからね、治安もあまりいいとは言えません。盗賊さんとかも出る物騒な場所です。
地元の人はあまり近寄りません。あ、あんなとこに行くなんて、か、考えただけでもう……!」
「あー、はいはい、どうせ行くことになるのは、あたしらなんだろうから無意味に脅えないよーに。
で、そこがどうかしたの?」
「えっと……そこがどう、ってことではなくてですね……」
少々言い澱む。ジュースで喉を潤してから、
こう言った。
「今現在、ここで起こっている事件の解決に協力して欲しいんです」
「俺に聞いても知るか!!」
彼らは今、追われていた。人出の少なくないストリートを全速力で駆けていく。一流の剣士としての脚力を持つ彼女たちに追いすがるのは、暗殺者でも盗賊一味でもなく……
「ちょっと待ってレンー!! 何で逃げるのーーーッ!!」
「こらぁぁぁッ、カノン!! お前ら、疚しい気持ちが無いんだったら止まれぇぇぇぇぇッ!!」
……世界最大の害悪だった。
Death Player Hunterカノン
―Prologue―
リゾートアイランド―――クオノリア・シーサイド。
ロイセイン大陸の中でも屈指のリゾート地であり、避暑地としても名高い観光都市の一つである。大陸の端に位置するクオノリアから、定期的に運航される遊覧船で約十分の場所にシーサイドと称されたその開拓島は浮かんでいた。
基本的には高級ホテルと領主や商人の別荘が建ち並ぶ観光地。相場がやや高いのが難点だが、仕事続きであった傭兵あがりの旅人が癒しを求めてやってくるのもこの島なのである。
「はぁぁぁ~~~、やっぱり海はいいわね~~~っ! スカッとして何も考えなくていい気分っ」
この、日頃縁の無い場所にカノンとレンがやって来たのも、度重なる仕事でいささか気分が滅入っていたからだった。
感情の起伏が激しいカノンは勿論、普段、終始涼しい顔を崩さないレンもまた。 仕事慣れしているとはいえ、休暇が欲しいときもある。お互いの顔色を悟り、骨休めをしよう、という提案でカノンから出たのがクオノリア行きの話だった。
世渡りは上手いが他人嫌いな面のあるレンは観光客のごった返す都市行きに、些か渋い表情をしたが、
「まあ、人生で一度くらいいけ好かない場所に行ってみるのも社会勉強じゃない」
と、やけに嬉しそうに話すカノンの押しの強い一言に、とうとう首を縦に振ったのだった。
「……いけ好かない場所を選ぶ時点で休暇ではないような気もするが」
「あはは、別に観光都市が好きってわけでも、人込みが好きなわけでもないけどさ。
一度は来てみたいところってあるじゃない」
遊覧船から降りるなり、やたら軽い足取りで前を歩くカノンは、そのままスキップでもしそうな勢いである。
だがしかし。
このときは数十秒後にそのスキップが全速力に変わろうとは、予測すら出来なかったわけで。
観光の前に渇いた喉でも潤そうと、何気なく決めた一軒のドリンクショップがまさか、この休暇を台無しにする発端となろうとは思ってすらいなかったわけで。
気分もはしゃいでいたカノンは、その運命の店へ通じる短い階段を上り、ドアを引いた。
その瞬間、彼女の背中が凍りつく。
「あ、あんた! カノンっ!?」
「何っ!? マジかっ!?」
「―――っ!」
ドアベルが鳴るなり、カウンター席にかけていた男女が振り返った。彼らは即座に椅子を倒して立ち上がる。
片や、青の混ざる艶やかな黒髪をポニーテールに結い上げて、素晴らしく整ったプロポーションを見せ付けるように露出した派手な女。
片や、長身にややがっしりした体格を、軽装戦士の身なりで包み、ブラウンの髪を短く刈った男。
互いに知った顔だった。
「あ、あんたっ、シリアぁっ!? アルティオまで……!! 逃げるわよ、レンっ!!
って、もういなッ!? 早ッ!」
「あーん、何で逃げるのレーンっ!」
「お前ら待てっ! 逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ちょ、レン、一人で逃げないでよッ!!」
……そんな経緯で壮絶な鬼ごっこが展開されたわけである。
それでどうなったかというと――
「レーンっ! こんなところで会うなんて、やっぱり私と運命の絆で……!」
「腐れ。廃れろ、切れてしまえ、そんなもの」
「ふっ……また俺の前に現れてくれるとは、運命の女神は余程俺を好いてくれているらしい。
カノン、ようやく俺の求婚に……」
「答えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 失せろ、消えてしまえ、そんなヤクザな神っ!!」
常識というものの通じない、究極的な馬鹿の前には、一流戦士の体力も何の意味も為さないらしい。理不尽な怒りにカノンの肩が震える。
――まったく、何年経っても何の進歩もないわね、こいつらぁぁぁ~~~っ!
本気で理不尽だ。
休暇を取りに来たと言うのに、この段々と蓄積されていく重い重い疲労感は何なのだろう。
やや諦め気味に溜め息を吐いて、カノンはどんよりとした目で彼らを見た。
「ったく、何であんたたちがこんなところにいるのよ……せっかくのバカンスが台無しじゃない」
「お黙りなさいっ! この私の目の届かないところで、私のレンと二人っきりでバカンスを楽しもう、なんて大罪、許すわけがないでしょう!」
「大罪て。おい」
シリア=アレンタイル。
思い込みの激しすぎるレンの自称『運命の恋人』であり、基本的に彼女の頭の中にはそれしかないらしい。その隣では相棒というか、同類類哀れむというか。ともかく馬鹿がもう一匹吠えている。
「やい、レンっ! てめー、他人の女を誘惑なんて、なんつーセコイ真似しやがんだっ!?」
「どこにも誘惑した覚えはない。付いて来たのはそっちが最初だろう」
「いーやっ! どうせ最初に甘言をひけらかし、カノンをそそのかしたに違いないっ!
俺にはわかるっ! 真実と、お前の悪行がっ!」
「……」
早速噛み付かれている彼もまた、諦めてただ息を吐いた。が、額にはしっかり血管が浮いている。
アルティオ=バーガックス。可愛い女の子が三度の飯より好きな色モノ軟派男であり、何の因果かカノンはこの男に気に入られてしまっているらしい。彼女にはまったくその気はないのだが。
その馬鹿二人がダブルで襲ってきた日には、人生嫌になるのに十分である。
カノンはずきずきと痛み出す頭を抱えながら、改めて息を吐いた。
少しは体温を冷やそうと、ジュースを一口含んだ瞬間、
ぞわわっ……!
「――!」
「どうした?」
「い、いや……今、何かさらに嫌な予感が……。い、いや、まさかこれ以上の不幸は」
「とにかくカノンっ! 私に黙ってレンと二人旅なんて絶対に許さないわっ! 狩人であった頃はまあ、多少の譲歩はしていたけれど、そういつまでもあなたの天下は続かなくってよ!」
「……誰も天下取ってないっつーの……」
店の中、ということもものともせず、立ち上がって思い切り宣言する彼女。風貌、格好でただでさえ目立っているのに、その大声はさらに他の客の注目を浴び、『姉ちゃんいいぞー!』、『脱げー!』などの下劣な野次が上がっている。
それをまったく気にしないもう一人が、根拠もなく得意げな表情で言う。
「まあ早い話が、これ以上、お前らを二人っきりで好き勝手させておくわけにいかねーから、俺たちもくっついてってやろうってこった。よろしくな」
「心の底からヤダ」
「勝手によろしくするな」
「ふっ、まあ照れるな」
「一回死ね、お前」
大してなびきもしないくせに髪を掻き揚げるアルティオに、きっぱりと言い捨てる。
消化に悪い。今、飲んでいる杏のジュースさえ、胃がフル稼動で働いてやっと消化できるほどだ。五臓六腑、すべてが機能低下しているのかもしれない。
「で、まずは現状把握なわけだけれど……」
「は? 現状把握?」
「とぼけるんじゃないわ、カノン。
あなたたち、この四年間、何かただならぬやましい間違いを犯したなんてことはないわよね?」
ぶっ!!
あまりといえばあまりにあからさまな問いかけに、カノンがジュースを吹き出した。
「げほっ! けほっ、かはっ!!」
「きったないわねー……」
「げほっ……誰のせいだと、けほっ、思ってんのよ! ったく、何を言い出すかと思えば……
ンな馬鹿なことあるわけ……」
怒鳴りかけたカノンの言葉が、唐突に切れた。
ふと。
言いかけた瞬間に、ある光景が頭を掠める。
さほど昔のことではない。第二政団を打ち倒した、その直後――
「……わけないでしょっ!!」
「ちょっと、今の間は何なのよ!? っていうか鼻の頭赤いわよ!!」
「レンっ! てめー、一体何しやがった!?」
「何かした覚えはない」
「嘘つけっ! 正直に話せば多少の慈悲はあるぞっ!」
「貴様はどこの裁判官だ」
「あーもううるさいうるさいっ……!」
「……あのー、失礼ですが…」
「何っ!?」
カノンは怒り任せに勢いで振り向いた。が、それをすぐに後悔する。
振り返った視線の先にいた男は、びくりっ、と肩を震わせて、そのまま小さくふるふる震え始めたのだ。心なしか少々、涙目である。
――……あたし、そんなに怖い顔してたか?
自問しながら、少々落ち込んだ。
「ほらぁ、カノン、貴方のこっわい顔でこの人脅えてるじゃない」
「う、ごめん。
いや、別に貴方に怒ってたわけじゃなくて、えーと、とりあえず大丈夫?」
なるたけ優しげに呼びかけると、男は未だびくびくしながらも、構えた腕の間からこちらを覗き、
「あ、あの、ご、ごめんなさい、殴ったり蹴ったり生皮剥いだり内蔵抉り出したり塩擦り込んだりしませんか……?」
「……しないわよ、そんな趣味の悪い……。何もしないからとりあえず脅えないで。こっちが何か切なくなってくるから」
表情を引きつらせながら、なるたけ柔らかい声を出す。
被害妄想も甚だしい。まるでこっちが人食いみたいじゃないか。
―――まあ……世の中には何でも悪く捉える超悲観主義者ってのもいるもんだけど……
カノンは何十回目かになる溜め息を吐きながら、目の前の男を観察した。
まだぎりぎり青年と言っていい歳だろう。金の柔らかな髪を肩まで伸ばし、涙目の瞳は翡翠。驚くほど綺麗な男、ただ浮かべる表情がやたらおどおどした、気弱なものであるせいでその魅力が半減してしまっている気はする。白のスーツ、素材はシルク。いかにもどこかの御曹司、といった風体の青年だ。
さすがに表情を引きつらせながら、アルティオが腰を突いた青年の腕を引き起こす。
「あ、ありがとうございます……。ごめんなさい、びっくりしちゃって」
「びっくりしたのはこっちの方よ……」
「あ、あう、ご、ごめんなさい」
「いーから。座り込まなくていーから。で、あんた、一体何処の誰で何の用なの?」
「あ、はい、すいません」
金の髪を揺らして、ぺこぺこしながら青年は立ち上がり、勧めた席へと落ち着く。通りかかったウェイトレスに、ミックスジュースを注文してから向き直った。
「自己紹介が遅れました。僕はクレイヴと申します。フルネームはクレイヴ=ロン=ウィンダリアと……」
「何ですってっ!!」
金切り声と共にばだんっ、とテーブルが音を立てた。
懸念して御曹司に目を向けると、やはり彼はアルティオの大柄な背中にしがみついている。
―――……こいつにだけはさっきの台詞言われたくなかったな。
「シリア、何だか知らないけど、ちょっと落ち着け落ち着け。依頼人、脅えてるから」
「これのどこが落ち着いていられるって言うのっ!?
カノン、貴方知らないのっ? ウィンダリアと言えば、クオノリア有数のリゾートホテルよッ!
最新の設備とサービスを備えた最高級ホテルで、プールは勿論、VIPだけが使えるプライベートビーチも備えたまさにリゾートホテルの真骨頂っ!
最上階のスウィートルームは一年後まで予約一杯の今、超人気ホテルの名前よ!」
「詳しいわね、異様に」
「当然よ。レンとの明るい未来のために、新婚旅行の人気スポットは押さえておくべきでしょ?」
「……相当前から思ってたことだけどさ、あんた、実はほんっきで馬鹿でしょ」
「どういう意味よ?」
「いや、まあ、何となく。
でも、この人がそのホテルと関係あるとは限ら……なくもないか。めちゃめちゃいい格好してるし。
えっと、クレイヴさん?」
「は、はい……?」
カノンは完全にアルティオの背に隠れ、かたかたと小刻みに震える青年に呼びかける。だんだん頭と胃が同時に痛くなってきた。
「あー……とりあえず、とって食ったりしませんから、ちょっと出てきてくれます?」
「そ、そんなこと言って、出て行ったら首とかもいだりしません……?」
「しないしない。しませんから、ふつーに、平和的に会話とか交渉したいだけなんで、お願いします」
カノンの説得に、恐る恐る顔を出すクレイヴ。その手はきっちりアルティオの服の袖を掴んだままだった。
「えっとですね、貴方、この人が今言ったウィンダリアホテルの関係者か何かですよね?」
「は、はい……ぼ、僕、実はそこのオーナーで……」
「なんですっ」
ぱかんっ!
間抜けな音と共に、シリアが何か言いかけたままゆっくりと仰向けに倒れた。
それを見届けてから、レンは近くにいたウェイトレスから借りた(正しくは引っ手繰った)トレイを下ろして実につまらなそうに息を吐く。
「え、あ、あのっ……」
「ああ、すまなかった。返す。角を使っただけだが、一応、拭いて使ってくれ。念入りにな」
「レン、ナイスフォロー! これで邪魔者は消えたわね」
「ひでぇ……」
涼しい顔で事後処理を終えるレンに、カノンは極めて爽やかな笑顔でVサインを出した。
「さてと。クレイヴさん、マジな話に戻すけど。
あたしたちを見て、声をかけてきたってことは何か頼みたいことがあるってことよね?」
「は、はい、そうです……」
ミックスジュースで宥められて、ようやく平静を取り戻したクレイヴは大げさな深呼吸を一つした。
また脅えられても困るので、シリアは昏倒させたまま、店の椅子に縛り付けてある。店にとっては甚だ迷惑だろうが、そこはそれ、有名ホテルのオーナーの威光で大目に見てもらおう。
クレイヴは肩を下ろして、上目遣いにカノンを見上げると、
「えっと、皆さんは旅の方ですよね? クオノリア・シーサイドにも森があるのをご存知ですか?」
「島の奥まったところにあるやつよね? 船から見たけど」
「はい。セリエーヌ森林といいます。クオノリアで唯一、昼の光の届かない場所だと、地元では言われています。
大きな島ですからね、治安もあまりいいとは言えません。盗賊さんとかも出る物騒な場所です。
地元の人はあまり近寄りません。あ、あんなとこに行くなんて、か、考えただけでもう……!」
「あー、はいはい、どうせ行くことになるのは、あたしらなんだろうから無意味に脅えないよーに。
で、そこがどうかしたの?」
「えっと……そこがどう、ってことではなくてですね……」
少々言い澱む。ジュースで喉を潤してから、
こう言った。
「今現在、ここで起こっている事件の解決に協力して欲しいんです」
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★ プロフィール
HN:
梧香月
HP:
性別:
女性
趣味:
執筆・落書き・最近お散歩が好きです
自己紹介:
ギャグを描きたいのか、暗いものを描きたいのか、よくわからない小説書き。気の赴くままにカリカリしています。
★ 最新記事
(08/16)
(03/23)
(03/22)
(03/19)
(03/11)
★ 目次
DeathPlayerHunter
カノン-former-
THE First:降魔への序曲
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Second:剣奉る巫女
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Third:慟哭の月
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Final
THE Four:ゼルゼイルの旅路
1 2 3-01 3-02 4 5 6-01 6-02 7 8 9 10 11-01 11-02 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 …連載中…
カノン-former-
THE First:降魔への序曲
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THE Second:剣奉る巫女
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THE Third:慟哭の月
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Final
THE Four:ゼルゼイルの旅路
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