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DeathPlayerHunterカノンの小説を移植。自分のチェック用ですが、ごゆるりとお楽しみください。
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DeathPlayerHunterカノン[降魔への序曲] EPISODE8

 夕飯を早々に平らげてしばらく。
 ホテルへと戻った四人はレンとアルティオが泊まっている部屋に集まっていた。表で話をするわけにもいかない。部屋自体も鍵をかけ、声が届かないようシリアが声を掻き消す風の魔法をかけている。
「俺の方はそんなとこだ」
 トップを買って出たアルティオが、締めくくる。カノンは顎に手を当てて唸りながら、
「つまり……収穫なし、と」
「うッ……!」
 はっきり言ったカノンの科白に、詰まる。
「まあ……町の人間の噂にいいものがあると思ってなかったけど。
 途中から仕事忘れてナンパに走ってたんじゃないでしょーね?」
「ううッ!」
「……あんたさぁ」
「い、いやッ! それでもその女の子からいろいろ話は聞けたんだぞッ!!」
「どんな?」
「いや、WMOに最近所属したらしい子だったんだけどさ」
 呪文が効いてるというのに、何故かそこだけ潜めた声で、
「最近、ローランの跡継ぎ……まあ、WMOのお偉いさんのポジションだな。
 一度は孫のクロードが昇格、なんて話が出たんだけどよ……ローランが押し切って、とっくに現役退いててもいいのに無理矢理続けてる、なんて言ってたな」
「年寄りの冷や水、ってやつじゃないの?」
 シリアが冷やかすが、カノンは眉間に皺を寄せて腕を組む。クロード、確か最初にホテルで会ったときに共に付いていたあの青年だ。
 ―――実の血縁といえど、ローランを恨む動機はあるわけか……。いや、でも、ローランだっていずれ辞めることになるだろうに、そこまでして今地位が欲しいものか……?
「まあ、とりあえずいいわ。ありがと。シリアは?」
「ふっ、この私に敗北を認め、一生恩に着るというのなら……」
「じゃあいいや。レン、あんたの方は……」
「……カノンちゃん、つめたい」
「涙目になるくらいなら最初から正直に言わんかい。で?」
 年上のくせに縋るように相好を崩すシリアに、呆れた視線を送りつつ促す。彼女はふっ、と真顔を作り、
「そうね。確かにクレイヴさんを恨んでいる人はいそうだけど。
 このホテルを建てるときにも土地の分譲とかいろいろとあったけど。けれど、殺人まで考える人間がいたようには見えないわね。
 ホテルを建てたのは今は亡くなってる先代らしくて、そっちのオーナーはかなり無理矢理なこともやってたみたいだけど、クレイヴに対しては特に聞かないわ。
 殺人を考えるなら、先代が生きていた頃にとっくにやってるでしょうし。
 あ、でも」
「でも?」
「最近、身辺警備を厳しくしていた、って話もあるわ。お金を使って用心棒を雇ったり、ね。
 もちろん、事件に関して私たちのような人間を雇うこともあったというけれど」
「ってことはクレイヴは自分がいずれ狙われることを知ってた、ってことになるわね……」
 だんまりを決め込んでいたレンの手が上がる。
「はい、レン君どうぞ」
「それについてはこっちも情報がある。"事件解決"に関して、クレイヴは観光協会側から強い要望を受けていたらしい」
「要望?」
「クレイヴはこの辺りでは一番の資産家だった。なら、観光協会がそれを頼って、事件を解決出来る人間を雇ってくれと期待するのも無理はない話だろう?」
「確かに。って、ちょっと待って」
 不意に、カノンはあることに気が付いて、指を鳴らす。
「ってことは、クレイヴは事件解決には本当は積極的じゃなかった、ってこと?」
「―――ッ!」
 シリアとアルティオが息を飲む。
「そうだ。少なくとも、今までとは違う解釈が生まれる。
 クレイヴはWMOの圧力を避けるために、わざわざ単発で人を雇ってはあちこちを調べさせていた……という解釈の他に。
 クレイヴは観光協会への建前のために、"事件解決"へ協力しているという姿勢を見せるためにあちこちの人間を雇っていた、とも解釈できる。
 この場合、クレイヴはその"事件解決"を望んでいなかったことになる。観光というサービス業の中心に立ちながら、な」
「……」
 茫然と、シリアもアルティオも顔を見合わせる。カノンは唇の端を歪ませて、乾ききった唇を舌で舐め取った。
「なるほどね……ってことは、ローランとクレイヴの関係を掘って行けば何か出てきそうだけど」
「お前の方はどうだったんだ、カノン?」
「……」
 問い返されて、答えに詰まる。
「何ていうか……この件に関わるな、の一点張りって感じでね。
 今、考えると最初にチップ一枚であっさり館のことを教えてくれたのも、出来るだけ早くあたしたちをこの件から手を引かせたかったんじゃないか、って」
「そうか……」
 力なく首を振るカノン。落ち込んでいても仕方がない。情報は少ない。打開策に通じるものは何一つないと言ってもいい。
 唯一の頼みといえば、カノンが拾ったあの石だが、どの文献を調べてもあんなもののことは一切載ってはいなかった。確かに、全ての文献を調べられたわけではないのだから、断言は出来ないのだけれど。
 ―――手詰まりか? いや、でも……
 一つでも、何か一つでも掘り出さなければ。
「! シリア」
「え?」
 思考の海に沈んでいると、不意にレンが面を上げる。唐突に呼びかけられたシリアの方は、首を傾げて頭をもたげる。
「術を解け」
「え、でもぉ……」
「客だ」
 ―――客?
 シリアが術を解除し、その瞬間にこんこん、とやや苛立ったノックの音。慌ててアルティオが周囲を見回し、確認をしてから声をかける。
 ―――そっか、風の術って外に声が聞こえない代わりに中から外も聞こえないのね……
 場違いな分析をしながら、細く開けられたドアを見る。
 薄暗い廊下を背に、ドアが開く。
 そこに立っていた顔に、カノンは、いやカノンたちは目を疑った。
「……こんばんは、お邪魔します」
 そうして丁寧なお辞儀を一つしてきたのは、たった今話に上っていたローランの孫クロード。そしてその後ろに憮然とした顔で控えているのは、件の魔道師ルナ=ディスナー。
 ―――こりゃあ……なかなかタイムリーな……。
「……とりあえず、御用をお聞きしましょうか」
「ご相談に、参りました」
 カノンの声に、クロードは静かに答える。
「相談?」
「……今日の昼、貴方とこちらのルナさんがカフェであの話をしているのを見かけまして」
 ―――う゛っ。
 ちらりとルナを見る。彼女はやはり憮然としたまま、力無く首を振るだけだ。
「失礼ながら、貴方方のことを調べさせて頂きました。ルナさんからも少々、お聞きしました。
 頼りになる方々だと」
「……」
「貴方方を見込んで一つ、お願いがあるのです」
 クロードは言葉を切って、息を飲み込んだ。彼の喉が上下する。真剣な眼差しをこちらに向けて、彼は言った。
「お祖父様を……止めて頂きたいのです」
「ローラン、を?」
「はい」
 問い返しに彼は一つ、神妙に頷くと、
「今回の件―――あの合成獣たちを造って放っているのは他でもない、僕の祖父―――ローラン=サングリットなんです」
 ―――オイオイ……

 ―――これまた…面倒な事態になって来た……。


「思えば祖父は良く、WMOについて愚痴を溢していました……」
 とにかくクロードを部屋に入れ、椅子を勧めるカノンに構わないでくれとドアの近くに腰掛けて。
 ルナとシリアで風の結界を張り直し。
 どこか疲れたような声色で、クロードがぽつりと呟いた言葉がそれだった。
「今の体制は腐っている、と。
 確かに、権力が高まるにつれ、WMO内にも賄賂が横行し、違法行為を黙認する空気が蔓延しているのは確かです」
「ちょっとちょっと……」
 ―――何気に凄いこと口にしてますけど、この人……
 異様なまでにあっさりと、WMOの裏事情を吐露し始めたクロードに、カノンが軽くストップをかける。
「いいの? そんな簡単に喋っちゃって……」
「本当はいけないことですけど……」
 ―――こらこら……
「ですが、場合が場合です。致し方ないでしょう。
 肉親がしでかしたことながら、今度の件はあまりに酷過ぎる」
「けど、何で……? こんなことすれば責任問題は絶対に自分に降りかかるに決まってるじゃない」
「確かに、自分の手が加わっていることが世間に知れたら、お祖父様はそれこそ再起不能なまでに社会的地位を失うでしょう。
 でも、こんな件を自身で解決したというなら、WMOはお祖父様へそれなりの評価を下すはずです。
 祖父はじわじわと、この件が一般の中にも浸透し、問題視されるのを待っていました。時間をかけてWMOの上層部に威圧を与え、恩を着せ、己の地位を高め、上層部からWMOの浄化を図る……というのが祖父の目的です」
「だからって、一般人の真ん中にいくらできそこないと言っても合成獣一匹放り込むってのは、尋常じゃないじゃない」
「それなんです!」
 クロードは我慢ならない様子でだんッ! と拳で床を打った。
「いくら何でも、こんなことが許されるはずはありません! これではWMOの浄化どころか、本末転倒だ!」
「まあ、確かに」
 カノンは肩を竦めて答える。良くある、目的のために手段をないがしろにするタイプ、というやつだ。
「あのこと自体はお祖父様も寝耳に水だったようです。ラグンビーチでの一件を聞いたときには、顔を青ざめさせていましたから。あれは演技じゃできないでしょう。
 お祖父様のプランは何もお祖父様だけで実行しているものではありません。もしかしたら……」
「ローランに賛同してる人の中の、痺れを切らした誰かが起こした暴走か離反行動か、ってこと?」
 クロードは力なく頷いた。カノンは眉根を寄せる。
「ってことは、これからもああいうことが起こりかねない、ってことね……。
 クレイヴの殺害については?」
「祖父はクレイヴさんのお父上ととても懇意にしていました。その繋がりで、クレイヴさんもお祖父様に協力していたようです。
 ……魔道生物の創造のみならず、正規から外れた研究というのは、少なからず資金が必要ですから。
 クレイヴさんとしてはお祖父様は昔からの馴染みですし、ビジネス上の付き合いもあるから断れない、でも観光協会としては事件が起こっているのを放って置くわけにもいかない。
 板ばさみの状態に置かれて、追い詰められていたんでしょう。何かしがのモーションを起こそうとしたところを、裏切りと判断されて……たぶん…僕は、そう考えています。
 祖父の指示か、それとも配下の者たちの判断なのかは解りませんが」
「……」
 それが正しいとするなら、クレイヴは板ばさみの状況に耐えられず、カノンたちに真実を、もしくはそれに順ずる何かを伝えようとして―――殺された、ということになる。
 きり―――ッ、カノンが奥歯を小さく鳴らした。
「もし、それが本当だとして、あんたはあたし達に何をして欲しいっていうの?」
「……近々、祖父と会談を開こうと思っています。その場での護衛と、クレイヴさんのことについての証人を……」
「待て」
 クロードの言葉を遮って、レンが制するように手を上げる。そこでようやく、カノンも剣鎌を自分の方へ引き寄せた。
「クロード、と言っていたな? お前を護衛する、という依頼に対しての報酬は幾らだ?」
「え?」
「今はそれだけでいい。答えろ」
「えっと、ポケットマネーですのであまり多くは出せませんが……」
 クロードの口にした金額は、まあまあ妥当なものだった。
「いいだろう」
 それだけ答えてレンはすらり、と剣を抜く。シリアとアルティオはそれに合わせて慌てて立ち上がり、カノンとルナはクロードを庇うように側に寄る。
 瞬間、
「窓際ッ!」

 轟ッ!!

 カノンの激と共に、シリアとルナが指を鳴らす。結界を張っていた風が乱れ、強風となって窓を粉砕した。
 同時に。

 ぐぉがッ!!

「ッ!!」
 窓際で炎が渦巻いて風に掻き消える。
 ―――外側から爆破するつもりかッ!? クロードもいるってのにッ!
 風が鳴り止まぬうちに、カノンは床を蹴る。
 身を乗り出すと、二階の屋根を滑り落ちるように駆けて行く影が二つ。
「クロードをお願いッ!」
 ―――逃がすかッ!
 躊躇い無く、窓枠を蹴る。二つの影は屋根からそのまま飛び降りる。一つが、もう一つの影に飛びついて、急激に落ちる速度が減速する。
 浮遊の呪。
 悠長にロープなど手繰っている暇はない。そのままの勢いで屋根の渕まで下りると、覚悟を決めて屋根を蹴る。

 がりッ!! がこッ!!

 ホテルの石壁に突き立てた剣が悲鳴を上げ、落ちる速度が激減する。かなり無茶だが、弁償代はクロードにツケて置くとしよう。
 十分な距離まで下りて、後はそのまま飛び降りるだけ。
 影は正面の十字路をそれぞれ別の方向に曲がる。一瞬の迷いの後、
「カノン、右ッ!!」
 空から声が落ちる。浮遊と風の呪を利用した飛行の呪で空に浮いたルナが、街道を突っ切って左側の角へと向かう。
 ……雇われ人が雇い主の側を離れて大丈夫なのか、疑問は残るが細かいことを気にしている暇はない。カノンは曲がり角、左の民家の壁に手をついて、

 ききいぃぃんッ!

「うわわッ!!」
 いきなり飛んで来たナイフに慌てて身を交わす。貫く対象を失ったナイフは石畳に敢え無く落ちた。
 通りの向こうへ消え行く影。追いかけるカノン。
 街灯も乏しい時間帯、これ以上引き離されれば完全に見失う。
「待ちなさいッ!」
 一声、吼えてカノンは石畳を走り出す。速度は自信があったが、相手もどうしてなかなか。しかし、それでも距離は確実に縮まっていく。
 ―――これなら!
 細い路地に身体を潜らせ、今日のスコールの名残だろうか、わずかな水溜りを影が踏む。弾けた飛沫を追い縋るカノンがさらに踏みつけようとして、
 ―――ッ!
 何かの違和感が、足の裏に触れた。

 ずひゅッ!!!

「な……ッ!」
 反射的に飛び退いた刹那。
 水溜りの中から細く、黒い影が飛び出してくる。
「毒蛇[ポイゾン・スネイク]ッ……」
 見たことがある。召還獣の一種、姿形は蛇そのものだが、背丈はざっと人の背丈分。
 牙をむき出しながら、顎を広げ、噛み付いて来る蛇。その牙を紙一重で交わし、抜き身の剣を翳す。
「はっ!」

 ざんッ!!

 蛇は頭を切り離されて、あっさり地に落ちる。刃に付いた青黒い血液を振るって、はっと気が付くと。
 追っていた人影は、既に夜の闇の中へと消えてしまっていた。


「邪魔するわねー」
「はいはい」
 遠慮も何もなく、一言だけ言って人のベッドに乗り込んでくるルナに、カノンは短い溜め息を吐く。
 あの後。
 思いがけない妨害に一人は取り逃がしてしまったが、ルナの方は一名をふん縛って連れて来てくれた。覆面を剥いでは見たが、クロードにも見覚えが無い顔だという。
 あの刺客が祖父の所業を告白しに来たクロードを監視、もしくは始末しに来た連中だという可能性は高い。
 ……ルナが使った精神衰弱系の術により、今日中に尋問することは出来なかったが。
 ともあれ、そういった可能性がある限り、今、WMO支部に帰還するのは危険行為である。なので護衛に来たルナ共々、今日は互いの部屋で寝泊りとなったのだ。
 ルナは女部屋、クロードは男部屋。
 今頃、どちらかが二つしかないベッドをどう使うか揉めているだろう。たぶん、床に寝るのはアルティオになるだろうが。
 こちらの場合は『こうなったのは不用意に会いに来たあんたの責任』と押し切られて、ベッドの半分を貸し出すことになった。ちなみにシリアは町中巡り歩いて疲れた、と言いながらもう一つのベッドに大の字になりながら寝ている。あの女。
 ―――まあ、あのお坊ちゃんの言うこともそうそう信じ切らない方がいいんだろうけど……
 首を振って毛布の中に潜り込む。
「ねぇ、ルナ」
「なーに? あー、気持ちいい。さすが天下のウィンダリアホテルのベッドねー」
「いや、寛いでないで。あのお坊ちゃん、本当に信用出来るんでしょーね?」
「んー……」
 枕に顔を埋めて幸せそうに相好を崩していた彼女は面を上げて、
「まあ、ローランと五分五分、ってところじゃない? 話は筋が通っているように見えるけど、別の見方だって幾らでも出来るし、別の誰かがあのお坊ちゃんを利用してるだけ、ってのもあるかもしれないし。
 どっちにしろ、明日の夕方くらいには捕まえたのが目を覚ますだろうから、全部ゲロさせれば済む話よ」
「そーだけど……」
「なら今出来ることは最終決戦に向けて体力回復ってところでしょ」
「……」
 彼女の、こちらを関わらせないようにする策は諦めたのだろうか、極当然のように話してしまっている。それとも土壇場で出し抜く覚悟があるのか。
 敢えて二人とも触れないようにしている。
 もそもそと毛布が蠢いて、彼女が向こうを向いた。
「カノン」
「ん?」
「……ごめん」
「……」
 小さく。
 聞こえるか聞こえないかほどの小さな声で、呻くように発せられた謝罪が、カノンの鼓膜を打った。
「いいよ、別に」
 暗い天井を眺めながら、カノンは、そう答える他の術を持ってはいなかった。


「……調べ物ですか?」
 横合いからかけられた声に、カノンは手を止めて振り返った。そこには今朝方、別れたはずの柔和な笑顔を浮かべた顔が。
「クロード、さん」
「クロード、で結構ですよ」
 手元の本を棚に戻しながら頷く。WMO付近の図書館内だ、会うこと自体は不思議ではない。
 あのまま朝を向かえ、ルナとクロードは一度WMOに帰還した。クロードには公務があるだろうし、ルナはローランに雇われている身だ。丸一日、支部を空けるわけにもいかない。
 日昼、堂々とクロードを襲う、ということはいくら何でもないだろう。周りには一般の魔道師もいるはずだ。あまりにもリスクがありすぎる。
 夕刻、再びホテルで落ち合うことを約束し、今朝方別れてきたのだが。
「他の方々は?」
 みんなバラバラです。アルティオは昨日、とっ捕まえた奴の監視、レンとシリアは周辺への聞き込み。私はちょっと調べ物」
「今回の件に関して、ですか?」
 眉根を寄せて、クロードは彼女が眺めていた本の棚を見上げる。
「失礼ですが何を、ですか?」
「ちょっとその……思うところありまして」
 カノンはその視線の先を辿って腕を組んで唸る。棚の上のプレートの文字は"歴史‐history‐"となっていた。
「……正直、今回の件とはあまり関連性がないと思うのですが」
「んー」
 目を閉じる。話して置いていいものだろうか―――いや、WMOの表向きの正式調査とて、同じような結論には至っているだろう。おそらく、今日も似たような話は出るだろう。
「まあ、実は……」


 昨日、ルナにした話をそのまま話すと、クロードは渋い顔で頷いた。
「WMOではそういう話、出て来てないの?」
「出て来てはいますが……ほとんどが無意味、でしょうね。筋の通った説ほど、祖父に握りつぶされてしまいますから」
「あー、なるほど……」
「ですが言ったでしょう? 祖父はWMOに打撃を与えるために合成獣を造り出しているんです。
 それだけなら、別に駄作の合成獣でも構わなかったのではないですか?」
「確かにね。でもどんな駄作でも、造り出すのにはそれなりに先立つものが必要でしょう? そんな資金の無駄遣いをするとは思えないのよ。
 どう考えても、研究と実用を兼ねるのが一番いい方法じゃない。研究過程で造った合成獣をデータを取るのを兼ねて放逐、とかね。WMOの中にも合成獣の研究をしてる奴なんか山ほどいるだろうし、一人くらいローラン側に付いてる奴がいるはずだわ。
 なのに何故、こんな無駄なことを繰り返してるのか。
 だから思ったのよ、出さないんじゃ無くて出せなかったんじゃないか、って」
「出せなかった、ですか?」
「そう、研究の主体になっているのは性能のいい合成獣を造ることじゃなくてもっと別のことにあるんじゃないか、ってね。
 そこまで考えたらふと思い出したのよ。死術、は解るわよね? あれの中に、核に触れると誰彼構わず、生物を凶暴化―――狂戦士化させる、っていう傍迷惑かつ危険極まりない術があってね」
「……それはまた」
「でしょ? 死術じゃなくても、危険な魔法なんて世の中に腐るほどあるわけで。もしかしたらそういう術が他にも存在した事例があるんじゃないかあるんじゃないか、ってさ。
 まあ、そんな術が正規の魔道書に載ってるわけないし、ってか載ってもらってても困るし。過去の事件か史上に類似例を探してるわけ。
 あったらあったでまたそれを掘らなきゃいけないわけだから回りくどいテではあるんだけど」
「なるほど……良く、そこまで思い至ったものですね。感心しました」
「そこは馴れっていうか……」
 ―――ッ?
 かすかな違和感。それはクロードの声色だったか、それとも言葉の使い方だったか。
 『思い至る』……おかしくはないだろうが、こういった場合、普通はそういう言葉を使うだろうか。
 新たに本を抜こうとしていた手が止まる。顔を上げてクロードを盗み見る。先程と変わらぬ笑顔を浮かべている―――瞳の奥に、かすかな嘲りを灯らせながら。
 カノンの中の、研ぎ澄まされた勘が警鐘を告げる。詰まらない理屈染みた願望と、十九年付き合ってきた自らの勘ではカノンは己の勘の方を信じる!

 だんッ!!!

 手の中の蔵書を床へ叩き付けると、後ろ飛びにその場を退く。そのまま踵を返し、振り向く事無く走り出す。
 小さな詠唱が耳に届く。気配と勘とだけを頼りに左側へ飛ぶ。なびいた髪の一房を焼いて、青白い光の孤影がその先の窓ガラスを容赦なく、砕いた。
 躊躇い無く割れた窓の桟へ足をかける。一階でだいぶ助かった。割れた窓を開け放ち、外へと着地。瞬時、
 複数の、気配。
「―――ッ!!」
 剣を抜く。繰り出した先はすぐ脇の茂み。
 確かな手ごたえと共にくぐもった悲鳴。引き抜いた刃は赤い残像を残し、粘ついた体液を芝生の上へ撒き散らした。
 顔を顰めながら距離を取る。
 茂みの中から影が躍る。フードを目深に被った、おそらくは昨日取り逃がした襲撃者。怪我を負っていないということは、どうやら茂みの中に二人潜んでいたうち、一人を片付けることは出来たらしい。
 が、
「くッ―――!」
「諦めた方がいいですよ」
 木の陰から、階上から降って湧いた同じような影に、カノンは足を止めた。後ろの割れた窓からは余裕の笑みを浮かべたクロード。
 魔道師なら空からでも逃げられただろうが、残念ながらカノンには出来ない芸当だ。
「まさか―――」
「まさかこんな場所で、ですか? ご心配なく。この図書館はWMOの管轄でもありましてね、人払いは出来ています。多少のことなら揉み消しが効きますしね」
 迂闊だった、まさか―――。

「無用な怪我はしたくないでしょう? カノンさん、我々とご同行願います。よろしいですね―――?」


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★ プロフィール
HN:
梧香月
HP:
性別:
女性
趣味:
執筆・落書き・最近お散歩が好きです
自己紹介:
ギャグを描きたいのか、暗いものを描きたいのか、よくわからない小説書き。気の赴くままにカリカリしています。
★ 目次
DeathPlayerHunter
         カノン-former-

THE First:降魔への序曲
10 11Final

THE Second:剣奉る巫女
10 11Final

THE Third:慟哭の月
10 11 12 13 14 Final


THE Four:ゼルゼイルの旅路
  3-01 3-02   6-01 6-02    10 11-01 11-02 12 13 14 15 16 17 18 19  20  21 …連載中…
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