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DeathPlayerHunterカノンの小説を移植。自分のチェック用ですが、ごゆるりとお楽しみください。
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DeathPlayerHunterカノン[慟哭の月] EPISODE1
最早、そこに謎はない。これはただ堕ちるピエロを笑うだけの物語。悪魔が手にするのは一枚のジョーカー。勝てるカードはどこにある?
 
 
 


Death Player Hunterカノン 
―慟哭の月―



 書簡の中には几帳面な字が延々と並んでいた。
 後ろから覗き込むレンの不機嫌なしかめっ面と、真正面から来る得体の知れない威圧感に、妙なプレッシャーが身体を押さえ込む。
 書状の中身など、半分ほども理解出来ない。
「……つまり」
 膠着状態に陥った場を切り裂くように、レンが低い声で言った。
 その短い一言に反応し、対面に座り、静寂を守る女性武官は顔を上げる。それに習うようにして、傍らに控える少年導師もまた、上目遣いに彼を見上げた。
「ゼルゼイルの北方シンシアの旗頭が、俺たちを軍官として迎えたいと」
「そこまでとは言わない。ただ、ロイセイン帝国を立て直した第三革命者として、我らの小国にご助力願いたいのだ」
 さらりと会話しているものの、その内容は、実はとてつもない。
 つまり彼女は―――ゼルゼイル王国北方領国シンシアの軍中将を名乗るこの女性は、五十年の内戦を続けている自国の軍のアドバイザーとして、カノンとレンの二人を招きたい、と言っているのだ。
 捉え方一つで、一国に封じられる、という意味合いにもなる。
 薄暗く、ランプを灯した宿屋の部屋の隅で、立ち会っていたシリアとアルティオが、小さく息を飲んだ。同じく、ドアの前に寄りかかるルナは、平然としているようで、その眉はしっかりと顰められている。
 ラーシャ、と名乗った女性武官は、ふぅ、と肩を上下させると、再び背を伸ばす。
「……存じ上げていると思うが……。
 我が国はかれこれ五十年程余り、内戦を続けている。ロイセイン帝国、並びに東方イースタン王国からもあまり良い目で見られていないことも重々承知の上だ」
「ゼルゼイルは内戦を始めてから、極端に周囲の国と距離を置いて来た。貿易も交流も最低限、貿易に関しては、昨今、摩擦さえ見られている。
 当然といえば当然ね」
「……恥ずかしながら、仰る通りだ」
 何とか吐き出したカノンの言葉を、彼女はあっさりと肯定し、憂鬱の息を吐く。
「五十年前―――
 かつてのゼルゼイルは二つの領国で一つの国を為していた。国は一つ、しかし領主である総統は二人。すべては権力の集中を避けるための政策だった。長らく、国はその政策で均衡を保っていたのだが―――」
「それが、五十年前、南方エイロネイアの総統となった男の独立宣言で、すべてが狂った」
「……」
 静かに、ラーシャは頷く。
「南方エリアゼイルは世襲によって血の繋がりで、国の半分を治めていた。
 しかし、現総統ヴェニア=ロフェイル=エイロネイアは、突如として自らをエイロネイア帝国皇帝と称し、北方シンシアとの境界から、北領を隔絶した。
 当時の北方シンシアの総統は、説得を繰り返したそうだが……それから領国同士の争いは耐えなくなってしまい―――
 当時のシンシア総統の怪死から、本格的な闘争が始まった」
「怪死?」
 首を捻ったアルティオに、ルナがすらすらと答える。
「シンシア総統、クラヴェール=イオ=ラタトスが、自宅の寝室で変死を遂げた事件のことね。
 争った形跡も、傷を負わされた跡もない。解剖してみても、毒物のようなものは検出されなかった。文字通り、"眠るように死んでいた"らしいわね。
 証拠は何もなかったけど、証拠がなかったからこそ、なのかしらね。当時のシンシアの人たちは、エイロネイアの刺客に寄る暗殺だと、断定した。
 クラヴェール氏は、シンシアの良心ともいえる人だったから、そこから両国の不和は決定付けられた」
「その通りだ。シンシアは当時の状況から、正当防衛と判断し、エイロネイアとの決別を宣言した。
 戦争が激化したのは、それから一年後のことだ……」
 沈痛な面持ちで、ラーシャは首を振る。そこには、総統を殺されたことによる苛烈な怒りはなく、むしろ、それを恥じているような含みがあった。
「……それで、何でそのシンシアの中将様が直々に、あたしたちに?」
 冗談を許さない目で、カノンは正面から彼女を睨む。彼女は、それを胸を張って受け止めながら、深く頷いた。
「……それから五十年が経過し、事態があの頃のままというわけではない。
 両国は最早、戦争をやるために、当時のいい訳を付けているような―――誰もが最初の理由を覚えていないというのに、戦いをやりたいがために、戦いを止めないような風潮となっている。
 手段のために、当初の目的を忘れている。
 これでは、前総統クラヴェール氏もあまりに浮かばれない」
「……それで?」
「クラヴェール氏が他界してから、シンシア内部には戦を促進させるような空気が蔓延した。平和主義者が否定されるような空気、とでも言おうか。
 その空気が選んだ新たな指導者は、タカ派の、一歩間違えればエイロネイアのヴェニア帝に取って変わらない危険な思考の持ち主だった。
 ……人々が、それに気が付いたときには、戦はもう、一歩も引けないような状態となっていたが……。
 それでも、シンシアの中には、当時の苛烈な怒りを治め、和平の条約を締結し、エイロネイアとの共存を図ろうという流れが生まれた。その流れが、タカ派の指導者を否定し、新たな総統を生んだ。
 それが我らの主である、シェイリーン=ラタトス様だ」
「ラタトス、って……」
「そうだ。前総統であらせられる、クラヴェール様の娘様でいらっしゃる。
 総統の任についたシェイリーン様は、和平への活路を見出そうと、シンシアの議会内の反対派を押し切って、エイロネイアに使者を送られた」
「……」
 その先の言葉を予想して、カノンは渋く顔を歪ませる。ラーシャはその表情通りに瞑目し、
「使者は帰って来なかった……。
 シェイリーン様は、シンシアの内部は勿論、ゼルゼイルそのものの、戦いに染められた、澱んだ風潮を変えるために、外部の新しい風を吹き込む必要があると仰った」
「それが、あたしたちってわけ?」
 こくり、と頷くラーシャ。カノンは首を傾げて、傍らのレンと顔を見合わせる。眉間に刻まれた皺が、一層深くなる。
「何で、そこであたしらが出て来るのか、よく解らないんだけど……」
「……我が国は閉鎖を続けて長いが、それでも他国の情報は流れてくる。その折に、ロイセイン帝国の政団で大規模な改革があったことを知った。
 シェイリーン様はそれに着目し、人を使って、その中枢におられた貴方方、お二人に行き着いた。
 そして、その改革を促したお二人に、助力を願いたいと申し上げられた」
「そうは言われても……」
 カノンは困惑と共に肩を竦める。
 政団の指導者が、我を見失い、死術の暴走を引き起こしたあの事件のことは勿論、忘れてなどいない。
 しかし、あれはカノンたちにとっては、不条理に巻き込まれた事件に過ぎない。
 望んで起こした改革などではないし、どちらかというと暴走を鎮圧した、という方が正しい。良くない指導者を倒した、という点では確かに改革なのかもしれないが……。
 どうにしろ、一国に召抱えられるようなことをしでかした記憶ではない。だからこそ、公式には、あの件に関わったことを、新しい政団の指導者には隠蔽してもらっていたのだ。
「そりゃあ、改革なんてそうほいほい起きるものじゃないだろうけど……
 中枢にいたからって、あたしたちを招きたい、って理由が理解できないし。なら、ロイセインの皇帝にでも頼んで、両国の仲介でもして貰った方が現実的なんじゃない?」
「出来るものなら。
 しかし、シェイリーン様の政策には、シンシア内部に反対する者も多々いる。そういった者の多くは、他国の皇帝に頭を下げることなど潔しとしないであろうし、もしそうなれば公式的な話になる。国の意見が統一されていなければ、どんなことが起きるか……」
「下手をすれば、そのシェイリーンとやらが、父親の二の舞を踏むことにもなりかねんな」
 ラーシャは苦い顔で首を縦に振る。
 カノンは腕を組んで、長い息を吐き出した。
「けど……」
「もちろん、それだけじゃないでしょ?」
 横合いから入った言葉に、全員が顔を上げる。視線の的となった魔道師は、呆れた表情で後頭部を掻き毟り、彼女を見る。
「……あんたたち、さっき、あの黒いのを見ただけで『エイロネイアの刺客か』って言ったでしょ。
 ってことは、最近、あいつがカノンたちに接触していたことを―――敵国が、第三革命者にちょっかいをかけていたことを知って……」
「……ちょっと待て、ルナ」
 語るように言うルナの科白にストップをかける。その肩に、ぽん、と手を置いて、
「さっき、ってあんた……何であいつらが、あたしたちを襲って来たことをあんたが知ってんのよ?」
「あー……えーと、まあ……」
 カチン。
「あ、あんた、さてはさっき覗き見してたわねッ!?」
「いやぁ、だってさ、ほらぁ。年頃の乙女としてはやっぱり気になっちゃう、ってゆーかぁv」
「気持ち悪い口調で誤魔化すなッ!」
「何、カノンッ! 貴方、また私の知らないところで何か抜け駆けを……ッ!」
「あ、あの……」
『あ゛……』
 姦しいとはこういうことを言うのだろう。一瞬、場を忘れかけた女三人は、女性武官の上げた弱弱しい、押された声で我に返る。
 ルナはわざとらしく、こほん、と咳を漏らし、
「つ、つまり、よ。
 ……あんたたちはエイロネイアが、大陸で名を馳せている人間たちに手を下してることを知って―――。
 自分たちに不利になるような事態になる前に、いっそのこと、シンシア陣営に引き抜こう、ってんじゃないの?」
「無礼なッ! そのような……」
「デルタ、落ち着け」
「しかし……ッ」
 腰を上げかけた少年の肩を、ラーシャが叩く。そのままルナを見上げると、生真面目に眉を引き上げながら、言う。
「いい。続けてくれ」
「……カノンたちは貴重なブレーンになり得る人材。戦争屋にとっては、どこにでも使える便利な駒になるでしょーね。だから、シンシアにとっても非常に都合が良い存在だった。
 ついでに言うなら、シンシアさん、最近旗色が悪いんじゃないの? 良くは知らないけど、領土の境界線がやや北寄りになってる、って話は耳にしてるわよ」
「……ッ」
 少年が悔しげに呻いて俯く。奥歯を噛み締めているようだった。
 対して女性は、激昂するようなことはせずに、深い溜め息を吐く。
「……貴女は、大陸人にしては詳しい方のようだな」
「まあね。その筋の情報網なら、結構持ってるし」
「―――お察しの通りだ。
 エイロネイアは元々が文化の中心となっていた場所だ。生活水準も戦に置ける技力も向こうが上。
 五十年、拮抗勝負が出来ていたのが奇跡と言っても過言ではないだろう。
 しかし、それもあの男が戦場に出るようになってからは、脆く崩れてしまった」
「あの男?」
 カノンの復唱に、デルタ、と呼ばれる少年が口惜しげに顔を上げる。
「エイロネイア皇帝ヴェニアの第二の息子……現エイロネイア皇太子です。
 矢面に上がるや、戦争に置いてその才覚を発揮し、次々とシンシアの居城や軍隊を壊滅させて行きました。今の境界線が北方に押しやられているのは、すべてあの男の所業、と言っても過言ではないでしょう。
 実際に、僕が目にしたわけはありませんが……慈悲の欠片もない、酷い噂ばかりが目に付きます」
「酷い噂、って?」
「……聞いた話では、捕らえられた捕虜は皆殺しになる、とか。血を残すためでしょうが、何人もの側室を抱えながら、気に入らない側室から次々に殺していく、だとか……」
「ひでぇ話だな……」
「……」
 カノンの背を汗が伝う。薄ら寒い気配が、背後を過ぎったような、そんな妙な感覚。
 心臓の、さらに奥を抉られるような。気持ちのいい話ではない。
「おそらくは、先ほどの連中も、エイロネイアの放った刺客でしょう。貴方方を、良いように利用しようとしているに違いない」
「……」
「……ヴェニア帝は、彼ばかりでなく、戦に置いて非常に優秀な人材を雇い、集めているという」
 ラーシャが少年の押し殺した声を継ぐ。
「戦軍には七本の柱が必要だと言い、実際にそれに値する人間を、『七征』と称して自らの側近や国の幹部として据えている。
 先ほど言った皇太子もその中の一人だろう」
「他の人間は?」
「……わからん。ただ、七本とヴェニア帝が称しているだけで、その中の誰が誰、という情報は隠されている。
 現段階で解っているのは、皇太子とその側近と思われる男の二人だけだ」
「で、人材が揃って来て、境界線も押しやられて。
 これじゃあ、ピンチだから早々に和解してしまおう、ってのが思惑ってわけね」
「それは……ッ!」
「疑われても致し方の無いことだ」
 再び肩を怒らせる少年を押し止め、彼女は深々と頭を下げる。
「しかし、シェイリーン様はけして悪意から、貴殿らを迎えようとしているわけではない。我らの目的はあくまで和平。
 それに、エイロネイアが何を企んでいるのかは解らないが、貴方方を奴らの手にかけるわけにはいかない。
 頼む。ここは、奴らに対して手を組む策だと思って、私たちと共にシンシアに来て欲しい」
 はっ、と我に返った少年も、またその隣で頭を下げる。
 カノンは眉根を寄せた。
 ……奴らが、あの黒衣の少年が、エイロネイアの刺客だとしたら―――
 カノンたちは文字通り、一国というとんでもないものを相手にしていることになる。それは解るが、何故、自分たちに固執するのか。
 その目的が判然としない。
 いや、そもそもエイロネイアの刺客だ、という保証は無い。
 シンシアの中将を名乗る、この女性がそうだと言っているに過ぎない。シンシアの紋とシェイリーン直々の書状は見せてもらったものの、これそれ自体が罠という可能性も―――
 さて、どう転ぶべきか。
 腕を組み、渋い表情でカノンが口を開きかけたとき―――
「悪いが、断る」
 きっぱりと、傍らから拒絶の返答が漏れた。
 驚いて澄んだ声を吐いた本人を見上げるが、そこにはいつも通りの鉄面皮があるだけだ。
「事情の程は察し出来なくもない。だが、そんな曖昧な理由で易々、戦争に参加表明などする気はない。
 奴らの正体もはっきりしていない今、そんな申し出を受ける理由は何もない」
「……どうしても、か」
「……」
 ラーシャは下げた頭から、上目遣いにレンを見上げる。しかし、その表情が変わらないのを見て取ると、陰鬱な溜め息を一つ、吐いた。
 冷えた沈黙が、その場を支配する。
 彼女にとって、その返答は、予想の範疇だったのだろう。
 あまりにも、一方的な申し出だというのは、誰の目にも明らかなのだから。
「……解った。
 元より、無理な申し出だということは重々承知していた。
 好き好んで、他国の戦争に加わろうという人間は、いないだろうからな……」
 それは、任務を果せなかった悔しさなのだろうか。やや俯いて、肩を落している。
「……それは解った。だが、私は奴らの目的を調査しなくてはならない。
 他に大陸での任務もあるので、常に、というわけにはいかないが……
 奴らが手を引くまで、度々貴殿らの護衛を勤めさせて頂きたい。奴らの目的をはっきりさせるためにも」
「……どうせ、断っても関わって来るんでしょーね」
「……すまない。任務なのだ」
 ラーシャは苦い表情で、頭を下げた。自ら頭の下げられる人間は嫌いではない。きっと、彼女は根から生真面目で、まっすぐな性格なのだろう。
 このような、他力本願で押し付けがましい任務はきっと好きではないはずだ。
 彼女の言うことをすべて鵜呑みにするわけにはいかないが、いざというとき、手が増えるのはそう悪いことでもない。
 沈黙が下りるのを見計らい、彼女はすっ、と立ち上がる。
「……私たちはしばらく、この町に滞在するつもりでいる。気が変わることがあったら、訪ねて来て欲しい」
「……期待はするな」
 レンは宿屋の名だけを告げて、部屋を後にしようとする彼女らに、短くそれだけ声をかけた。
 ラーシャはふ、とどこか寂しげに微笑んで、軽く会釈のように頭を下げる。少年もそれに習い、足取り重く、居た堪れない表情で部屋を出て行った。
 二人の足音が遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなるのを待って、カノンはレンのマントを引く。
「……不服か?」
 そう問いかけられて、元より、そんな理由で戦争ごっこに関わろうなんてごめんだ、と考えていたカノンは、首を横に振った。
 しかし、背中に駆け抜けた、冷たい予感だけは拭えずに。
 結局は、掴んだマントの端を、離す気にはなれなかった。


「ラーシャ様……」
「解っていたことだ。あまりに一方的な頼みであったからな」
 暗い石畳を踏みしめながら、わずかに唇を噛んでラーシャは不満げな従者を窘める。
 夜明はまだ遠い。周囲の店や家からは明かりが消えて、彼らの行く先を照らすのは心許な魔道灯と、丸い月の光だけだった。 ラーシャは溜め息を吐く。
 元々、無理な頼みだったのだ、と消沈する自分に言い聞かせる。
 実際、おそらく失敗するだろうとは思っていた。いくら、エイロネイアが彼らを何らかの形で利用しようとしているにしろ、それはシンシアに味方する理由になりはしない。
 彼らにとって一番、安全な道は、ゼルゼイルなどとは一切、関わり合いにならない道なのだから。
「私たちがしなければならないことは、彼らの協力を得ることではなく、奴らの手が彼らに及ばぬよう、一刻も早く奴らを捕らえることだ」
「そう、ですね……」
「そりゃあ、またご立派なことで」
「!」
 思っても無い声が、街灯の下から響いた。
 デルタが真っ先に顔を上げて、目を剥く。かつッ、とブーツの踵を鳴らし、一本の街灯に寄りかかり立っていた彼女は彼らの正面に立った。
 月光に、髪に付けられた赤石と三枚の羽が揺れる。何故か、そのうちの一本は鴉の濡れ羽のように黒く照らされていた。
「貴女は……」
「そーいや、名乗ってないわね。ルナよ。自分で言うのも何だけど、結構、帝国では名の知れた魔道師のつもり」
 腰に手を当てて、まるで仁王立ちのように胸を張り、言い放つ。
 ラーシャは不可思議なものを見たように、目を細めた。
「何故、ここに……」
「そりゃあ、先回りして来たし」
「いや、そういうことではなくて」
「ま、そうでしょうね」
 からからと笑う姿は、一体何を考えているのか。先ほどのことが尾を引いているのだろう、デルタは警戒するように一歩、彼女から距離を取っている。
「ごめんね。個人的にも、あの娘らを戦争になんてやりたくないし……
 レンのことも、許してやって欲しい」
「いや、許すも何もない。こちらからの一方的な、押し付けであることは否定出来ない。
 あそこまで迷い無く、正面切って断られたのには驚いたが、逆に妙な期待を抱かない分、すっきりしたかもな」
「……あいつは、さ。絶対、もう人殺しなんかさせたくない子が、いるから」
 幾分、表情を穏やかに緩ませて、ルナが言う。
 その意図を、ラーシャはすぐに理解した。
「……そうか」
「戦争、ってのは、どうオブラートに包んだって、そういうもんでしょ?」
「そうだな。私とて、何人この手で殺めてきたのか―――
 それでも……
 ……いや、こんなものは余計な話だな」
 ラーシャは軽く頭を振る。瞑目して、軍官らしく胸を張ると、
「して、私に何か用か?」
「ええ、まあね。――― 一つ、聞きたいんだけど。
 あいつらが、エイロネイアの使者だって話は、本当なの?」
 居住まいを正し、表情を引き締めて、些か睨むような目でルナは問う。ラーシャは一瞬、迷ってから言葉を選ぶ。
「……断定することは出来ない。が、エイロネイアが第三革命者を狙い、何かを企んでいることは密偵の情報からも明らかだ。目的は不明だが」
「……」
 ルナは顎に指を押し当てる。緑青色の目を閉じて、何か葛藤するように眉根に皺を寄せる。
「按ずることはない。貴女の仲間の身は我ら、シンシアがお守りする。
 だから……」
「誰がそんなことを気にしてる、って言った?」
「・・・?」
 顔を上げた彼女の、あまりに挑戦的な瞳に、ラーシャは面食らう。彼女は口元に笑みさえ浮かべ、腕を組み、
「確かに、あたしはカノンたちの仲間。
 でもね、そうそうお互いに行動を制限されてるわけじゃないの」
「しかし……」
 彼女の言わんとしている言葉を察し、ラーシャは言い澱む。だが、それと反してルナはつかつかと彼女に歩み寄り、意志の強そうな、蒼い瞳を真正面から見据えた。
「――聞かせて頂戴。シンシアと、あいつらのことについて」



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★ プロフィール
HN:
梧香月
HP:
性別:
女性
趣味:
執筆・落書き・最近お散歩が好きです
自己紹介:
ギャグを描きたいのか、暗いものを描きたいのか、よくわからない小説書き。気の赴くままにカリカリしています。
★ 目次
DeathPlayerHunter
         カノン-former-

THE First:降魔への序曲
10 11Final

THE Second:剣奉る巫女
10 11Final

THE Third:慟哭の月
10 11 12 13 14 Final


THE Four:ゼルゼイルの旅路
  3-01 3-02   6-01 6-02    10 11-01 11-02 12 13 14 15 16 17 18 19  20  21 …連載中…
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