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DeathPlayerHunterカノンの小説を移植。自分のチェック用ですが、ごゆるりとお楽しみください。
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DeathPlayerHunterカノン[降魔への序曲] EPISODE2

「結局、引き受けたな」
「仕方ないじゃない。相場がわかってないんだと思うけど。あの人、お金の気風良かったんだもん」
 それが休暇中に仕方無く依頼を引き受ける理由に入るのか。正直疑問なところだが、彼女の性と言えばそれも正解だ。
 もともとが成り行きで始まった気ままなぶらり旅。金銭はあるに越したことはない。ただの建造物調査であれだけの報酬なのだから気持ちは解る。それについては特に異論はない。だが、
「ただ一つだけ気になるんだが」
「何?」
「……」
 終始、表情を崩さない彼の顔が、露骨に不快に歪んだ。ちらり、と背後を振り返って、自分の腕にぶら下がろうとしていた白い手を容赦無く払う。
「いつまで付いて来るつもりだ、お前ら」
「私はレンと地の果てまで一緒なの!」
 ――何、その頭悪い発言。
 反射的に複数の突込みが頭を掠めるが、口にしたところで無駄な上に余計な労力を使うだけになりかねない。
「で、何であんたまで付いて来んのよ」
「ふっ、知ってるかカノン。磁石には常にN極とS極があってだな」
「S極があたしでNが自分だ、なんてクソ寒いこと抜かしたら喉元抉るわよ」
「……」
 先手と同時に小剣を引き抜いたカノンに、さしものアルティオも動きを止めた。彼女は十分に睨みを効かせてから、深々と息を吐いて剣を収める。
「まあ……今さらあんた達にどうこう言ったところで通じる奴じゃない、ってのは解ってるから……。
 何でもいいけど、邪魔だけはしないで頂戴ね」
「何を言っているのかしら。むしろ私たちの邪魔をしてるのは貴女じゃ……」
「あー、はいはいもういいからそれでいいから。仕事の邪魔だけはしないで、お願いだから」
 いっそ気絶させたまま、ふん縛って置いて来た方が良かったかもしれない……。いや、それとも最初の時点で海に沈めて置くべきだったか。
 そんな後悔が頭を過ぎるが、今さら後の祭りである。ふとレンと視線が合った。小さく肩を竦めただけで、後は特大の溜め息。何かを諦めている表情だ。きっと自分だって鏡を見たらあんな表情をしているんだろう。
 とにかく仕事を迅速に終わらせて、何とかしてこいつらを振り切ろう。仕事の合間のドサクサに紛れてもいい。それからは東方にでも逃げようか。もしくはゼルゼイルの戦地にでも逃げるか。いや、冗談抜きでこいつらの側にいるくらいなら内戦国内に飛ばされた方がマシかもしれない。
「ところでカノン。聞きたいんだけど」
「何よ?」
 観光地指定されているビーチや連絡港に比べると、打って変わって荒れ果てた森林の下道を歩き出す。そこで珍しく文句以外でシリアから声があがった。彼女は珍しく、やたらと深刻な表情で、
「依頼された仕事って、何?」

 ずっ!!!

 ……本気で前のめりに倒れるところだった。
「おいおい、しっかりしろよ。危ないぞカノン」
「しっかりするのはあいつの頭の方よ! あんた! あの空間にいてなんっっっの話も聞いてなかったわけッ!?」
「割と」
「割と、じゃないッ!」
「そんなこと言ったって仕方ないじゃない。ずっと気絶してたんだから、誰かさんのせいで」
「あ」
 気絶させたのはレンの上に、そもそもそれは自業自得だった気がするのだが、何故か睨まれる。納得はいかないが、細かいことを掘っていてはそれこそ話が進まない。カノンは仕方なしにばりばりと後頭部を掻き毟る。
「仕方ないわね……。まあ、そのままで行くわけにもいかないから歩きながら手身近に説明するけど……。
 あんたたちは知ってる? このクオノリアで起こってる事件のこと」
「愚問ね。そこら辺の凡愚と一緒にしないでもらえるかしら」
 ――そんな限りなく一般の人に失礼なことは絶対にしない。
「最近のクオノリアで多発している怪物事件。実際はどこかの合成獣だって話だけど。
 唐突に発生した合成獣が観光客を襲う、っていう事件でしょう? 事例は今までに数十件。合成獣の形は千差万別。海から森から陸地から。まさにオールマイティな合成獣がごろごろ。
 合成獣がいるってことは、それを召還、または合成した魔道師がいるはず。けれどそれも見つからない。一方では、そのせいで観光客は激減。クオノリア市長は様々な魔道師に依頼して解明を急いでるらしいけど、間に合ってないようね」
「……詳しいわね」
「常識って奴よv」
 やたら無闇に立派な胸を張るシリア。カノンはぽりぽりとこめかみを掻いて居住まいを正す。
「そこまで知ってんならいいわ。で、事件と平行していろーんな噂話が蔓延して。これから調査しに行くところもその『事件の発端』候補の一つ、ってことよ」
「候補?」
「むかーしの話らしいけどね、セリエーヌの森林の中に魔道師が住んでた館があって。
 魔道師本人はとっくの昔に死んじゃったらしいけど、彼だか彼女だかが研究してた内容は誰も知らない。加えて館の整備もされてない。だ、もんだから誰かが魔道師が死んでも魔道師が作った合成獣は生きていて、老朽化に伴って大量に外に逃げ出して来てるんじゃないか、って。
 研究型魔道師の暗いイメージと、怪しい事件が根拠無く結びついた結果ね」
「でも、そんな怪しいところがあるならとっくに行政がどうにかしてるんじゃないの?」
「調査の手は入ってると思うんだけど。
 こうなったら一度調べたところでも虱潰しなのか、そんなに行政が信用できないのか。まあ、あの人たちにとって重要なのは、実際に合成獣が人を襲ってることじゃなくて、それによってクオノリア・シーサイドのイメージががた落ちになってる、ってことだろうから。
 少しでも可能性があるなら早く原因を究明して、観光客の不安を払拭したい、ってところなんでしょうね」
 言い終えて、公道を逸れて、唐突にカノンは小剣を抜いた。アルティオとシリアが目を開いて硬直するが、彼女が切り裂いたのは逸れた道に生える……というより道なき道に生い茂る藪だった。 一方でレンは懐から研いだばかりの鋭利なナイフを抜き、邪魔な太い枝を切り落し始める。
「とまあ、そういうわけでここ入って行くから。あー、シリア、あんたは髪の毛、気をつけた方がいいわよ」
「ちょ……! やぁよ、そんなとこっ! メイクと服が汚れちゃうじゃない!」
「別にここで待ってるならそれでもいいわよ。ってか、むしろ歓迎だし」
「ぐっ……」
 シリアは歯を噛み締めて、ちらりとレンを見る。何やら葛藤していたようだが、やがて覚悟を決めたらしく、長い髪を纏め出した。
 小さく打ったカノンの舌打ちは誰にも聞こえていなかったようだった。
「……?」
「どうかした? レン」
 生真面目に枝を落していたレンの手が不意に止まる。空に視線を投げ、ゆっくりと首を回し、周囲を眺め始めた彼に、カノンは構えを取った。彼女を片手で制しながら、
「いや……誰かに見られているような気がしたんだが、気のせいのようだな。誰もいない」
「誰か?」
「いや、気にするな」
 そう声をかけつつも、彼は何か懸念するように背後に広がる森林奥、日を遮る高い梢の辺りを暫く見つめてから作業へ戻った。
 それを見届けてから、ちらりと、カノンは同じ方向に視線を投げる。
 だが、そこには黒い木の梢の下に、ただ昼間の暗い闇がわだかまるばかりだった。


「こりゃあ年代物に当たったもんねぇ」
 聳える外門に、口笛を吹いたカノンが最後の藪を打ち払う。木々に纏わり付く蔦と邪魔な枝、背の高い藪を払って小一時間。それは漸く姿を現した。
 門構えには二つの柱。背の丈を軽く凌駕した門の柵。その狭間に止まる、時計塔を掲げた古めかしい造りの小屋敷。屋敷の壁伝いに枯れた蔦が絡みつき、垣間見える庭にはもう二度と水を湛えないだろう、苔むした小さな噴水跡と捲れた石畳。
 次に口笛を吹いたのはアルティオだった。
「ひゅー、今時、こんなもんがまだ残ってるもんなんだな」
「地方に行けばいくつか見られるわよ。大抵、変な奴らの巣窟になってるけど」
「もー、いやぁ! カノン! 何よ、ここ!! 私のお気に入りのマントが破れちゃったわよ、これ特注なのよ!?」
「そんな破れることが前提のものを特注にする方が悪いんでしょうが……。ってか、人のせいにすんな」
 カノンは一歩踏み出して、足元を弄った。こつん、とやたら大きな石ころが足にぶつかる。見渡すと同じような大振りな石が、折れた梢を下敷きにするようにごろごろと転がっている。
 視線を空に上げた。
「むぅ……」
 カノンは苦い顔で門に指を這わせる。鉄の梁に指を這わせる。拭ったグローブの裏についてきたのは、黒々とした炭の欠片だった。
「ちょ、っと……面倒ね、これは……」
「あ? 何が?」
 館ばかりを呆けて見上げていたアルティオが首を捻る。カノンと同じような表情をして、地面の石を払っていたレンもまた小さく舌を打つ。
「……石哺獣[ガーゴイル]か」
「はっ!?」
 物騒な化け物の名称を上げたレンに、アルティオが素っ頓狂な声を上げた。アルティオは眉間に皺を寄せて、慌てて地面から足をあげる。
「がっ、ガーゴイルって、これがかっ!?」
「さすがにこれだけ粉々になれば死んでるだろうけどね。あそこ」
 言って門柱の上を指すカノン。目を凝らすと二本の柱の頂上に、細い石の足が残っている。有無を言わさずに粉砕された証拠だ。確実な倒し方ではあるが乱暴なことも確かである。
「石哺獣[ガーゴイル]を門番に使う魔道師は少なくないわ。ここが魔道師の住んでいた館だって話は本当みたいね。
 問題はこれを誰が倒したか、ってことだけど」
「ここに来たかもしれない、って言ってた行政の調査隊……じゃねーのか?」
 渋い顔の彼らに、カノンは首を振る。
「あたしたちがここまでどうやって来たか覚えてる? 四人であれだけ厄介なとこ抜けて来たってのに、『隊』なんて来たらもうちょっと道が馴れててもいいでしょーが。
 恐らく調査隊は別のルートを通ったか、ここには目星をつけてないか」
「けれど、じゃあ誰がどうやってここまで来たっていうのかしら?」
 ずい、と顔を近づけて迫るシリア。カノンはそれを押し返すように片手を掲げ、まっすぐに空を指差す。反射的に彼女の指に目線をやるシリアとアルティオ。
 彼女の指の先に、丸くぽっかりと蒼い穴が空いていた。何故だかそこだけ梢が消えて、ちょうど人一人分ほどの空間が、外の日の光をそのまま通していた。
「……空?」
「魔道師か、それとも魔道を齧って空中浮遊の術を使えた奴か。ま、門の状態を見る限り、あたしは魔道師に一口賭けるけどね」
「何で?」
「……」
 間の抜けた顔で問い返してくる二人に、カノンは苛立つように頭を掻く。どうやら一から十までしっかりと説明してやらねばならないらしい。面倒な。
「あんたたち……一応、小さくても脳みそはあるんだろうから少しは考えなさいよ……」
「ちょっと今、さりげなく小さいとか」
「周りの壁には死ぬほど蔦が生えてるのに、門のところだけきれーになくなってるでしょ。誰かが除去しなきゃこうは行かないわよ。
 それに、門に触った指について来たのは錆じゃなくて炭だったわ。
 これまた豪快に蔦を燃やして通ったみたいね。まあ、結局、そのせいだかもともと開かないまでに門が壊れてたのか開かなかったみたいだけど」
「開かない?」
「さっき試してみたら動かなかったわ。最も、足跡を見る限り、浮遊術で門を飛び越えていく、って言う単純明快な方法をとったみたいね。
 バラバラのガーゴイルといい、豪快な門の突破口といい、結構無茶苦茶な奴だけど。で、まあ、ここからが問題。
 そいつがまだこの中にいるみたいなのよね」
「へ?」
 存外、間の抜けた声だ。カノンは腕を組んで改めて門を見上げる。
「足跡は新しいし、門からまだ熱は抜けてないし。ガーゴイルも風化してないってことはそんなそんな時間は経っちゃいないわね。
 ただの別働隊か、それともただ興味を持った魔道師が入り込んだだけか。どっちにしても面倒ね」
 クレイヴの依頼は正規のものではない。こういう観光地には必ず存在する観光団体というか連合というか、ともかくそんな集会を通した依頼ではないが故、正規の調査隊と出くわしていざこざがあったとなれば勿論問題だし、後者にしても衝突があればクレイヴの、果てはホテルウィンダリアのイメージダウンになりかねない。そうなれば本末転倒、報酬が削られるのは必至である。
「まあ、穏便に行きたいところだけど……」
 言葉を切って、カノンは心底不安げな表情で後ろを見遣る。
 ――この情緒不安定な馬鹿どもはどうしてくれようか。
 開き直れば一利くらいはあるかと思ったが、どうやら百害あっても一利ないようだ。まったくなんだってこんな奴らと知り合ってしまったのか。
 ――まあ……いつまでも溜め息吐いてても仕方ないか。
「えーと、門を登る……のはきつそう、ね。とりあえず斬れないかどうか試してみて、駄目だったら……」
「カノン」
 レンの低い声に諭されて、ようやくその空気に気づく。
「! きゃん! ちょっとレン、そんないきなり乱暴な……v」
「いいから黙れ」
「な、何だっ?」
「いいからちょっと大人しくしてて、あと気配も殺して」
 慌ててぼうっと門前に突っ立っていた二人を塀の裏側へ押し出し、もしくは蹴り倒し。自らも物陰に身を潜めながら、お互いに視線を交わす。こくり、と小さな頷きを返してからカノンは門の向こう側へ視線を走らせた。
 さく、さく、と軽い足音が響いていた。枯れた下生えを踏みつけるその音は、どう聞いても入り込んだ兎や猫のものなどではなく、れっきとしたブーツが地を踏む人の発する音。
 まさかこちら側に人がいるとは思っていないのか、気配は消していない。と、いうことは向こうにはまだ気づかれていない、ということだ。
 だが、この位置関係では門に達する前に気づかれるだろう。相手が手馴れであればあるほど。
 ――さあ、どう出るのが正解か……
 このまま様子を見るか先手必勝か、はたまたこちらから姿を見せて穏便に片をつけるか。
 しかし、相手が過敏な人間なら出て行ったその場で即攻撃されるという可能性もある。
 迷いが負ける業界であることは重々承知だが、相手が敵とは言いきれない場合というものはどうにも面倒だ。
 仕方なく、カノンはアルティオの口を塞いだまま、レンはシリアの頭を足で地に縫い止めながら、早い話が踏みつけながら(酷)、息を殺し、そのときを待つ。
 相手がこちらに気がついて、何らかの行動を起こすまで。
 ひたり、と足音が止まる。間を置かずに聞こえてくるのは浮遊の術を唱える声。思ったよりもその声は幼く、甲高い少女のものだった。
 ――? こっちに気づいてない? いや、待て、それ以前にこの声って……
 不意に、術が完成するより前に詠唱が途切れた。しばし何か戸惑うような間があって、再び響く詠唱の声。
 だがしかし。
 ――おい、待たんかい。
「ち、ちょっとあんたその呪文は待……ッ!!」
「我呼ぶ、駁すは荒野生む猛き怨恨、落ちよ、バルドフォルン!」

 どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!

 ……止める間もなく打ち出された火炎爆発呪文はものの見事に門と屋敷の壁とを豪快に吹き飛ばしたのだった。


 爆風が収まりつつある中、彼女は大分伸びたブラウンの髪を撫で付けながら憂いた息を吐き出した。
 ばさりっ、と手入れのいい髪が風に棚引いて揺れ、落ちる。
 ふと、彼女は雲ひとつ無い今日の空を仰ぎ見て、
「はー、すっきりしたー。やっぱり何かありそうだったら強行突破がストレス溜まんなくていいわねーv」
 ――……って、いうか。
「やっぱりあんたかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 づどむっ

 怒り任せに放ったカノンの飛び蹴りは鮮やかな直線と共に門を吹き飛ばした張本人――魔道師ルナ=ディスナーの頭へと突き刺さった。

 
 
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★ プロフィール
HN:
梧香月
HP:
性別:
女性
趣味:
執筆・落書き・最近お散歩が好きです
自己紹介:
ギャグを描きたいのか、暗いものを描きたいのか、よくわからない小説書き。気の赴くままにカリカリしています。
★ 目次
DeathPlayerHunter
         カノン-former-

THE First:降魔への序曲
10 11Final

THE Second:剣奉る巫女
10 11Final

THE Third:慟哭の月
10 11 12 13 14 Final


THE Four:ゼルゼイルの旅路
  3-01 3-02   6-01 6-02    10 11-01 11-02 12 13 14 15 16 17 18 19  20  21 …連載中…
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