忍者ブログ
DeathPlayerHunterカノンの小説を移植。自分のチェック用ですが、ごゆるりとお楽しみください。
<< 03  2024/04  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30    05 >>
[18]  [17]  [16]  [15]  [14]  [13]  [12]  [11]  [10]  [9]  [8
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

DeathPlayerHunterカノン[剣奉る巫女] EPISODE1

 ―――毎度毎度のことながら。

 ばたんッ!! がろごろ、がたん、ごろッ! どすんッ!!!

「……」
 爽やかなはずの朝の一時に響き渡る不快な騒音。カウンターの向こうの厨房で、フライパンを握ったままびっくりして顔を上げる宿屋の主人、驚いて視線を階段下に投げる他の客たち。
 対して、
「またか……」
「はぁ……」
「よっく続くわねー、どうも」
 カノン、ルナ、アルティオの計三名の反応は極々冷めていた。
 階段を転げ落ち、ぴくぴくと痙攣したままのソレを追うように、極静かにぱたん、とドアの音。階段をゆっくりと下る音が聞こえて、ばさり、と青のマントを翻して彼は階下に降りた。
 まだ復活できていないソレを視界の端に捕らえ、短く鼻を鳴らすと何事もなかったかのようにテーブルに着く。
「……おはよ」
「お早う」
「で、今朝は何だったの?」
 ―――何故、微妙に楽しそうか、ルナ。
「……勝手に人のベッドに入ろうとしたからな」
「何だ、いつもじゃん」
 ――― 一応、いつもあっちゃいけない内容なんだけどね。
 突っ込む気も起きなくて心の中だけで悪態を吐く。そうこうしているうちに、階段下で蹲っていた物体が、もぞもぞと動いて、不意にばっ、と身を起こす。
 脅えて引く他の客。
 ソレは乱れた髪を掻き揚げてかつん、と一つヒールを鳴らしてから何の演出なのか豊満な胸を揺らしながらやたら優雅に歩き、テーブルに着く。
「ふっ、今日もなかなかに痛かったわ」
「じゃあ、やめりゃあいいじゃん」
「わかってないわね。これは照れ隠しの愛のムチに決まってるじゃない。ねぇ、レンv」
「とりあえずコーヒーを頼む。苦めでな」
「うわ、完全に無視したッ!?」
 回を追うごとにさらに冷めてきているような感さえ受ける。
「ったくまあ、よく続くわねー……」
 しれっとした表情で運ばれてきたコーヒーを口に運ぶレン。呆れた声で吐き出して、傍らの親友に話を振ろうとしたルナは、ふと言葉を止める。
 諦めずに果敢に件の無表情に絡むシリアに対し。
 彼女はただ憮然とした表情で目玉焼きを突付いていた。
 ルナはそのまま何も言わずに、ただ肩を竦め、呆れ果てたような息を一つ、吐いたのだった。


 Death Player Hunterカノン 
 ―剣奉る巫女― 

「っていうかさー、思うけどアルティオはそういうのしないよね」
 一通りの朝食が終わり、各々デザートと食後の飲み物を堪能していると、不意にルナがそんな話題を振ってくる。
「何が?」
「いや、だから何? アタックとは名ばかりの変態紛いの犯罪ストーカー行為?」
「……いや、まあ、否定はしないけど」
 ―――下手なこと言って本当にされても困るし。
 心の中だけで付け足して置く。だが反してアルティオは掻き揚げるだけの髪の長さもないくせに、格好だけは付けながら、
「俺みたいな紳士がそんなことするはずないだろう?」
「……本当の紳士はほんの少し褒めたくらいで図に乗って教会に拉致しようとしたりしないけどね」
 ジト目で睨んでやると、頬に一筋の汗。聞こえよがしに溜め息を吐いてやる。
「ってかさ、あんた、カノンが狙いなら何でそこら辺でナンパばっかしてんのよ? それじゃ振り向くも何もないと思うけど。ねえ?」
「いや、あたしに振られても困る」
 思わず本音が漏れた。
 アルティオは何やら難しい顔で腕を組み、唸りつつ、
「しかしな、可愛い子がいたら衝動的に声をかけたくなる。それが男の本能というものだろう?なあ?」
「……変な趣味と思われても嫌だから否定はしないが、その衝動を堪えるのが人間であることの証明だろう?」
「って、人間否定かよおいッ!! 酷ッ!!」
 同性に振って逆に涙する。まあ、レンに振ること自体が選択の間違いだ。
「くぅ、ここに俺の味方はいないのかッ!」
「今さら気づいたんかい」
「これだから世論はよぉ……男に冷たいよなぁ」
「いや、世論て」
「考えてもみろッ! シリアだからまだ笑い話で済むが、同じことを俺がカノンにやったら通報されても文句は言えまい!? ただの変態の犯罪者だ!」
「いや、どっちにしろ変態だし、じゅーぶん通報していい気がするけど」
「他にもだ! 例えば女性が間違って男子トイレに入ったとしても『きゃあ、すみません』の一言なのに男が女子トイレに入ってみろ! 瞬く間に誹謗中傷の嵐だぞッ!?」
「ンなえげつない話を大声ですなッ!!」

 どがしゃあんッ!!!

 立ち上がってまで力説するアルティオの後頭部に、カノンの肘がのめり込んでテーブルへ沈めた。顔面から激突したテーブルにひびが入る。
 ……他の客の注目を浴びるのは覚悟の上なのだが、その中にうんうんと涙ながらに頷いている男共がいるのはどういうことなのか……。
 ―――男って……
「いって、何するんだよカノン……」
「……石頭ね」
 あっさり起き上がったアルティオに、呆れた溜め息を吐く。
「まー、アルティオは頑丈さだけが取り柄だからねー」
「……お前らなぁ」
「いや、事実だし」
「頑丈さが取り柄っていうけどな! じゃあ、アレの取り柄は何だってんだ!? ってか、俺とどう差があるってんだッ!?」
「……逆にどうしてお前と同列に並べられなくてはならんのか、説明が欲しいところだな」
 立ち上がり様に指を差された本人が、憮然として吐く。身を乗り出して両者を見比べたルナが無残に一言。
「……顔?」
「うわぶっちゃけたッ!」
「それ言ったらお終いだろッ!!」
「そーよ! もともとレンをそこら辺の凡愚と一緒にすること自体が誤りというものではなくてッ!?」
「当たり前よッ、そんな一般の善良な市民に死ぬほど失礼なことするわけないじゃないッ!」
「オイ……」
 さらりと対抗するように吐いたカノンの暴言に、多少の怒りを滲ませてレンが呟いた。
「何よ、文句ある?」
「山程ある」
「だぁって、毒は吐くわ意地は悪いわ、逆に言ったらいいの顔だけじゃない」
「ほほう、どうやら自分が所構わずことを起こす暴れ馬だという自覚はないらしい」
「誰が所構わずことを起こしてんのよ! あたしは時と場所は選んでるッ!」
「……この間、一人で突っ走って、結果捕まったのは誰だ?」
「うぐッ!」
「語るに落ちたわねカノン! 所詮は子供ということかしら? これを機に自分の軽率な行動を反省したらいいわ。アルティオもこんなお子様に感けてないでもっといい子を見つけなさいな、おーほっほっほっほ!!」
「って、あんたにだけは言われたくないのよッ!!!」

 ズガンッ!!!

 衝動的に放ったカノンの後ろ回し蹴りは狙い外さず、シリアの側頭部を打ちつけ、標的を完全に沈黙させたのだった。


「ったく、少しは自重しろってのよ、ああ腹立つッ!」
「……何が?」
 その日の宿を決めたのが大きな町だったのが幸いだった。久々の大浴場というものが備わったやや高い宿の更衣室で、カノンは思い切りバスタオルを床に打ち付ける。
 時間がずれていたため、他の客は少ない。
 やたらとささくれ立っている親友に、長い髪を纏めていたルナが問いかける。
「シリアに決まってんでしょ! 何であいつが馬鹿なことやらかす度にあたしたちまで周りの注目浴びなきゃいけないのよ!?」
「いや、まあ、階段上から蹴り落としたのはレンだけど。
 今更じゃないの、何そんな憤慨してんの」
 怒りに拳を握りながら胸を張り、ルナへ指を突きつける。ルナといえば突き出された発育のいい胸に少々殺意を抱きながら罵詈雑言を迎え撃つため腕を組む。
「別に他人の色恋沙汰に口を出す気はないけどね! 何ていうか、もっと周囲の迷惑考えろっていうかッ!! あの顔面鉄鋼無神経デリカシー無さ男に、どうしてそこまで必死になれるのか頭の中身見てみたいなとか思うけど、」
「滅茶苦茶口出ししてるじゃない」
「大体にしてレンもレンよ! その気がないならもっとばしっ、と言ってやればいいじゃない!
 あと、人前でくっつくなとか注意するとかッ!!」
「いやアレは相当嫌がってると思うけど。少なくとも普通の男、いくらその気がないからって階段から突き落とさんだろーし。
 っていうか、言ったくらいで治るようならとっくに治ってるでしょーが」
「う゛ー……」
 納得のいかない表情で頬を膨らませる彼女に、ルナの中にちょっとした悪戯心が生まれる。宥めるように怒らせた肩を下ろさせて、わざと声を弾ませながら、
「まあ、そう言うなら仕方ない。手っ取り早い方法もあるにはあるけどねー」
「何よ? 永久に眠ってもらうとか?」
「ンな物騒な真似しないわよ。つまりさ、シリアが絡んでレンが過激に諫めるから注目を浴びるんであって、それがなけりゃいらん注目も浴びない。そうでしょ?」
「まあ……シリアの言動と格好でも十分注目浴びてる気がするけど。けど、どうやって止めるのよ、そんなもん」
「簡単よ。ごたごたが無ければいいんだから、レンとシリア、くっつけちゃえば?」
「…………はぁッ!?」
 ―――またとんでもないこと言い出したぞ、この女……
 カノンが浮かべたしかめっ面がそう語っている。
「どんな妄言よ、それは……」
「筋は通ってない?」
「通ってないわよ! 第一、どうやってそんなことやるつもりなのッ?」
「いや、惚れ薬でも作っちゃえば」
「って、それだけはやめろッ!!」

 ごがんッ!

 鈍い音が脱衣所に響く。肘を喰らった頭のてっぺんを押さえながら、ルナが涙目になってカノンを見上げる。
「痛いわ、カノンちゃん」
「縁起でもないこと言うからよ!」
「縁起の問題なわけ……? ってか、別に薬に頼らなくてもシリア支援してやればいいだけの話じゃない。あんた、目の敵にされなくなるだろーし」
「それだけは何かヤダ」
「いや、あたしも精神的には非常に嫌だけど」
 後頭部を摩りながら彼女は立ち上がって短く溜め息を吐いた。
「まあ、あれよ。それはそれとしてあんたもそろそろ自分のこと考えて然るべきじゃないの?」
「どういう意味よ?」
「いやさ、十九って言ったらもう世間様では結婚適齢期よ。まあ、それでなくたって浮ついた話の一つや二つ、あっておかしくない年齢だし」
「う゛……」
「カリスお祖母さまも心配してるんじゃないの? 狩人引退してから……つーか、旅に出てから一回も帰ってないでしょ」
「あ、あの人の話はやめて……、お願いだから……」
 叩き付けたはずのバスタオルにくるまって、小動物のように縮まるカノン。
「あんた……まだ治ってないわけ、お祖母様恐怖症」
「治るわけないでしょ!! あの人に比べたら鬼やら魔族やらなんて赤子のようなもんよッ!!」
「……まあ、それはともかく。あんたもいつまでもぶらぶらしてないで、ちょっとはそーゆーこと考えたらどう、ってこと」
「ンなこと言ったって、あんたやシリアの方が年上じゃないのよ……」
「シリアはああだし、あたしはこれでも有名魔道師一家の娘だからいろいろあるわよ。
 けどねぇ……」
 ルナの視線が急にじっとりとしたものに変わる。その視線に曝されたカノンはその意味が解らずに一歩後退った。
「健全な年頃の男と女が二人で何年も旅してて、未だに何も無いなんて何つーか問題だなぁ、って」
「なッ、何でそういう話になるのよ!? おかしくないじゃない!?」
「そういう話にしかならないし! ってかおかしいし! あんたたち、本ッ当に何もないわけッ!?」
「ないってば、しつこいわねッ! 大体、幼馴染で旅してたって何も不思議じゃないでしょ! シリアとアルティオだってそうだし!」
「あれらはただの同類よッ! そーゆー微笑ましい言い訳が許されるのは頑張って十三くらいまでよッ!!」
「ンなこと言ったって……、何もないんだから仕方ないじゃない……」
 まくし立てるルナに唇を尖らせる。
 唐突にやたらと大人しくなるカノンに、ルナも威勢を失って罰が悪そうに頭を掻きながら、
「あー、まあ別に責めてるわけじゃなくって。いや、責めまくってた気もするけど。
 カリスのお祖母様じゃないけど、これでもあたしだって一応は心配してるのよ? 年頃の娘が仕事を引退してからもずっと当ても無い旅なんて。それもいくら幼馴染とはいえ、異性とじゃね。
 普通の親なら親としても、世間体に関しても、心配して当然よ」
「う゛っ……け、けど」
「別にカリスさんだってレンを信用してないわけじゃないでしょ。だから今まで放置してくれてんだろーし。ただ、もーちょっとそういうこと考えても罰は当たんないんじゃない、ってこと」
「……う、うう」
 至極当然な反論をされて、カノンが言い澱む。主体的にはともかく、ルナが言っているのはあくまで一般常識なのである。更なる反論の術があるわけがない。
「ど、努力はします……」
「それでよし」
「けど今日はやけにつっかかるわね……どうしてよ?」
「別に? ただ……」
「な、何?」
 再び舐めるような視線がカノンを襲う。相手が相手なので嫌悪感は無いが、不快感は否めない。彼女の視線はしばし彷徨ったあと、傍らの服がたたまれた籠の中で止まる。
 正確にはたたまれた衣服の上に丁寧に置かれた繊細な造りの首飾り[ネックレス]に。
 シルバーのリングが通された極シンプルなもので、飾りとしておざなり程度に小さな青い石が埋め込まれたベルが一緒に通されている。
 年頃の娘が着飾るためにつけるには些か地味で、物足りない感はあるが趣味は悪くない。
「いやッ、あの、これは別に……ッ」
「どこの誰にもらったんだか知らないけど羨ましいわねーv
 ついでに今日、朝方見当たらなくてかーなり焦ってたのは見物だったわーv」
「って、今日のはあんたのせいかッ!」
「失礼ね、ただたまたま見慣れないものがあったんで、興味本位で別の場所に隠して反応を見てみたかっただけよ」
「失礼なのはあんただッ!!
 あー、もう一瞬でも真面目にあんたの言うことを聞いてたあたしが馬鹿だったわッ!!
 さっさと入って上がるわよッ!!」
「はいはい」
 怒鳴りつけて浴場へ向かうカノンの後を、ルナは小さく舌を出して追う。ふと足を止め、頭につけた羽飾りを外していないことに気がついた。
 絡まった髪を外して籠の中の衣服の上に、赤石のそれを置く。
「……」
 一瞬だけ、自嘲染みた笑いを漏らし、彼女は今度こそカノンの後を追った。


←STORY1 Finalへ

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret (管理人しか読むことができません)
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
★ カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
★ プロフィール
HN:
梧香月
HP:
性別:
女性
趣味:
執筆・落書き・最近お散歩が好きです
自己紹介:
ギャグを描きたいのか、暗いものを描きたいのか、よくわからない小説書き。気の赴くままにカリカリしています。
★ 目次
DeathPlayerHunter
         カノン-former-

THE First:降魔への序曲
10 11Final

THE Second:剣奉る巫女
10 11Final

THE Third:慟哭の月
10 11 12 13 14 Final


THE Four:ゼルゼイルの旅路
  3-01 3-02   6-01 6-02    10 11-01 11-02 12 13 14 15 16 17 18 19  20  21 …連載中…
★ 最新トラックバック
★ バーコード
★ ブログ内検索
★ アクセス解析

Copyright (c)DeathPlayerHunterカノン掲載ページ All Rights Reserved.
Photo material by 空色地図  Template by tsukika

忍者ブログ [PR]