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DeathPlayerHunterカノン[ゼルゼイルの旅路] EPISODE6-01
「よーしゃ! おーい、そこの者どもーッ! ここはもう撤収ーッ!!
次、行くわよーッ!!」
ゼルゼイルという土地は、曇り空が多いのだろうか。
青空は見えているものの、白い雲がやたらと多くて、太陽光を遮っている。日射病になる心配はないだろうが、ここは比較的南に位置する国のはずじゃなかったっけ……?
無為にそんなことを考えながら、カノンは瓦礫の上で声を張り上げるルナを見上げた。
――者ども、て……。
今朝方、バラック・ソルディーアを出立したばかり。既に砦に集まっていた魔道師を数人と、護衛役としてシンシアの兵士が三人あまり。
ルナはやはり魔道師としてはかなり優秀な方なのだろう。彼らとは出会って数日、いや一日と少ししか経っていないはずなのに、瓦礫の向こうであれこれ見回っていた魔道師たちは素直にひょこひょこと戻ってくる。そして、羊皮紙の束を振りかざしているルナの指示を真剣に待っているのだ。
それはひとえに、彼らがルナの才能を認め、指示に従うのを良としている証だった。
対して、護衛の兵士の一人は先ほどから欠伸を噛み殺している。
無理もない。知識も興味の片鱗さえないものにとっては、この荒廃した瓦礫の山は、ただのゴミの山くらいにしか映らないのだから。
ふぅ、と息を吐いて、カノンは固まって何事かを相談する魔道師たちをちらりと見てから、瓦礫の山に登った。側の石柱に背中を預けていたレンが、ちらりとこちらを見てくるが、咎められたりはしなかった。
元は何かの神殿か、教会か何かだったのだろうか。風化しかけたステンドグラスが、瓦礫の狭間に悲しく砕けている。
積み上がった瓦礫は人の背を軽く越えていて、その上からは広がる平地と周囲を取り囲む林が点々と見えた。土地の大きさは、大体大きな町の礼拝堂くらいだろう。肌に冷たい風が、流れていった。
魔道師陣の方からは、教典がどうのこうのという会話が聞こえてくる。と、いうことはやはり何かの宗教施設であったのだろう。
破壊の爪痕がそれほど古くない、ということは、十年、二十年前の抗争か何かに巻き込まれたのだろうか。
ふぅ、と息を吐くと、今朝の出立を思い出す。
やはりというか何と言うか。シリアもアルティオは、最後の最後まで自分たちも付いて来ると言い張った。いつものわがままというよりは、知らない土地で二手に分かれるのが心配で仕方がない、という感じだった。
その思いは、カノンも、たぶんレンやルナも同じだったはずだ。
けれど、今はそれぞれ、各々に役割がある。ルナにはルナにしか出来ないことが、カノンたちには、カノンたちが最適と思われる役割を与えられている。
それを解っているから、しぶしぶとだが、最終的には二人とも頷いてくれた。
不安ではあるが、あれで二人とも一流以上の剣士と魔道師だ。きっと上手くやってくれるだろう……。
そう自己完結して。
背中に、一つ、気配が生まれる。
「――ッ! ……あ、ああ……なんだ、あんたか……」
「……」
心臓に悪い。
眼前に、微動だにしない紫の瞳があった。瞬きもしないのだろうか、こいつは、と思っていると、ちょうどぱちくりと可愛らしい瞼が動く。
涼しい風に、薄桃色の髪が攫われる。
無言無口。会ったときから一言も彼女の声を聞いていない。ヴァレスが特別に派遣する、と言って付いて来た将校のライラ=バートンだ。
「えーと、な、何……?」
「……」
「カーノーンッ! 聞こえてんでしょ、こらぁッ!!」
彼女が無言で下を指差すのと、喚き声が上がるのは同時だった。余程ぼーっとしていたらしい。声を発した当人が、随分と肩を怒らせている。
「ごめん! ありがとッ!」
「……」
一言だけ礼を言って、カノンは慌てて瓦礫を降りる。彼女はそれに続こうとすらせずに、やはり終始無言のままだった。
そのカノンの背を見送って、ライラは明後日の方向に目をやる。
けれど、それが何を見ていたのか、悟れる者は、いなかった。
かさり、と歩く度に乾いた土が音を立てる。ゼルゼイルの土、というのはこんなにも痩せていたものだったろうか。
どこか埃っぽい空気が漂う。西大陸の空気は、こんな味がしただろうか……?
「主様?」
「……ああ、ごめん。何でもないよ」
主に代わって、重たそうな剣を包んだ布を抱えながら、シャルは不安げな声を上げる。無難な答えを返しながら、もう一度眼下を見下ろした。
僅かな日光に煌いた、金の髪が、目に、痛い。
「……彼には左腕の代わりに、千里眼でもついてるのかなぁ」
「それはないです。人間ごときに、そんなものはついているわけがないのです。シャルだってそんなこと出来ないのです」
「ははは、ごめん。シャルをけなしたわけじゃないよ。単なる例え話だ」
そんなつもりで言ったのではないのだが。
何とも的外れな解答をしてくれる少女が可笑しくて、つい、笑ってしまった。それに反して、シャル、と呼ばれる少女の顔は晴れない。
「主様。本当にお一人で良いんですか?」
「まあ、ね。これくらいなら、たぶん。それにシャルがいるからね、一人ではないよ。いざというときは存分に頼れる」
「……はいです。主様は、シャルが、絶対にお守りします」
妙に気合を入れて、肩に力を入れる傍らの少女の仕草が、つい可愛らしく、可笑しくて頭をぽんぽんと叩いてしまう。
彼女には、その意味がよく解っていないらしい。あどけない顔をこくん、と傾げただけだった。
今度は、それには構おうとせず、少年は眼下に広がる瓦礫の山を見る。……正確には、その場所に、群がる彼の贄たちを。
「そろそろ行こうか。シャル」
その声に、彼女は答える。無機質な、義務めいた、声色で。
「――yes,MyLord」
←5へ
次、行くわよーッ!!」
ゼルゼイルという土地は、曇り空が多いのだろうか。
青空は見えているものの、白い雲がやたらと多くて、太陽光を遮っている。日射病になる心配はないだろうが、ここは比較的南に位置する国のはずじゃなかったっけ……?
無為にそんなことを考えながら、カノンは瓦礫の上で声を張り上げるルナを見上げた。
――者ども、て……。
今朝方、バラック・ソルディーアを出立したばかり。既に砦に集まっていた魔道師を数人と、護衛役としてシンシアの兵士が三人あまり。
ルナはやはり魔道師としてはかなり優秀な方なのだろう。彼らとは出会って数日、いや一日と少ししか経っていないはずなのに、瓦礫の向こうであれこれ見回っていた魔道師たちは素直にひょこひょこと戻ってくる。そして、羊皮紙の束を振りかざしているルナの指示を真剣に待っているのだ。
それはひとえに、彼らがルナの才能を認め、指示に従うのを良としている証だった。
対して、護衛の兵士の一人は先ほどから欠伸を噛み殺している。
無理もない。知識も興味の片鱗さえないものにとっては、この荒廃した瓦礫の山は、ただのゴミの山くらいにしか映らないのだから。
ふぅ、と息を吐いて、カノンは固まって何事かを相談する魔道師たちをちらりと見てから、瓦礫の山に登った。側の石柱に背中を預けていたレンが、ちらりとこちらを見てくるが、咎められたりはしなかった。
元は何かの神殿か、教会か何かだったのだろうか。風化しかけたステンドグラスが、瓦礫の狭間に悲しく砕けている。
積み上がった瓦礫は人の背を軽く越えていて、その上からは広がる平地と周囲を取り囲む林が点々と見えた。土地の大きさは、大体大きな町の礼拝堂くらいだろう。肌に冷たい風が、流れていった。
魔道師陣の方からは、教典がどうのこうのという会話が聞こえてくる。と、いうことはやはり何かの宗教施設であったのだろう。
破壊の爪痕がそれほど古くない、ということは、十年、二十年前の抗争か何かに巻き込まれたのだろうか。
ふぅ、と息を吐くと、今朝の出立を思い出す。
やはりというか何と言うか。シリアもアルティオは、最後の最後まで自分たちも付いて来ると言い張った。いつものわがままというよりは、知らない土地で二手に分かれるのが心配で仕方がない、という感じだった。
その思いは、カノンも、たぶんレンやルナも同じだったはずだ。
けれど、今はそれぞれ、各々に役割がある。ルナにはルナにしか出来ないことが、カノンたちには、カノンたちが最適と思われる役割を与えられている。
それを解っているから、しぶしぶとだが、最終的には二人とも頷いてくれた。
不安ではあるが、あれで二人とも一流以上の剣士と魔道師だ。きっと上手くやってくれるだろう……。
そう自己完結して。
背中に、一つ、気配が生まれる。
「――ッ! ……あ、ああ……なんだ、あんたか……」
「……」
心臓に悪い。
眼前に、微動だにしない紫の瞳があった。瞬きもしないのだろうか、こいつは、と思っていると、ちょうどぱちくりと可愛らしい瞼が動く。
涼しい風に、薄桃色の髪が攫われる。
無言無口。会ったときから一言も彼女の声を聞いていない。ヴァレスが特別に派遣する、と言って付いて来た将校のライラ=バートンだ。
「えーと、な、何……?」
「……」
「カーノーンッ! 聞こえてんでしょ、こらぁッ!!」
彼女が無言で下を指差すのと、喚き声が上がるのは同時だった。余程ぼーっとしていたらしい。声を発した当人が、随分と肩を怒らせている。
「ごめん! ありがとッ!」
「……」
一言だけ礼を言って、カノンは慌てて瓦礫を降りる。彼女はそれに続こうとすらせずに、やはり終始無言のままだった。
そのカノンの背を見送って、ライラは明後日の方向に目をやる。
けれど、それが何を見ていたのか、悟れる者は、いなかった。
かさり、と歩く度に乾いた土が音を立てる。ゼルゼイルの土、というのはこんなにも痩せていたものだったろうか。
どこか埃っぽい空気が漂う。西大陸の空気は、こんな味がしただろうか……?
「主様?」
「……ああ、ごめん。何でもないよ」
主に代わって、重たそうな剣を包んだ布を抱えながら、シャルは不安げな声を上げる。無難な答えを返しながら、もう一度眼下を見下ろした。
僅かな日光に煌いた、金の髪が、目に、痛い。
「……彼には左腕の代わりに、千里眼でもついてるのかなぁ」
「それはないです。人間ごときに、そんなものはついているわけがないのです。シャルだってそんなこと出来ないのです」
「ははは、ごめん。シャルをけなしたわけじゃないよ。単なる例え話だ」
そんなつもりで言ったのではないのだが。
何とも的外れな解答をしてくれる少女が可笑しくて、つい、笑ってしまった。それに反して、シャル、と呼ばれる少女の顔は晴れない。
「主様。本当にお一人で良いんですか?」
「まあ、ね。これくらいなら、たぶん。それにシャルがいるからね、一人ではないよ。いざというときは存分に頼れる」
「……はいです。主様は、シャルが、絶対にお守りします」
妙に気合を入れて、肩に力を入れる傍らの少女の仕草が、つい可愛らしく、可笑しくて頭をぽんぽんと叩いてしまう。
彼女には、その意味がよく解っていないらしい。あどけない顔をこくん、と傾げただけだった。
今度は、それには構おうとせず、少年は眼下に広がる瓦礫の山を見る。……正確には、その場所に、群がる彼の贄たちを。
「そろそろ行こうか。シャル」
その声に、彼女は答える。無機質な、義務めいた、声色で。
「――yes,MyLord」
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★ 目次
DeathPlayerHunter
カノン-former-
THE First:降魔への序曲
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Second:剣奉る巫女
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Third:慟哭の月
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Final
THE Four:ゼルゼイルの旅路
1 2 3-01 3-02 4 5 6-01 6-02 7 8 9 10 11-01 11-02 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 …連載中…
カノン-former-
THE First:降魔への序曲
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Second:剣奉る巫女
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11Final
THE Third:慟哭の月
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